ラスト ボーン サン
作者は冒険もののBGMを聴きながら本を読み、そして、ノートに色々と書きながらしばらくして私を見た。
「カフェオレが飲みたい。」
作者の甘える声に私は立ち上がる。さあ、ここでやっとお話が出来ます。既に日は沈んでしまいました。作業の為に明るくしていましたが、少し灯りを落として、リラックスしていただきましょうか。
私はキッチンでお湯を沸かし、そして、サンドウィッチを作り始めました。
きゅうりとハムの軽いものを。英国のハイ ティを思わせるような華やかな盛り付けにしましょうか。
実は少し前に銀のティースタンドを購入したのです。そして、薔薇の花をあしらったセットのティカップ。少女時代、作者が憧れた少女漫画のお姫様が使っていたような、豪華で上品なスタイルの軽食。これを見たらきっと、作者も元気が出るに違いありません。
「なんだか、すごいわね。私、自分の衣装がもう仕分けなく思えてきたわ。」
作者は私の用意したハイティを気に入ってくれたようです。
「では、お着替えくださいませ。」
私は舞台役者のようにわざとらしく言うと瞬時に作者を可愛らしい薄紫のイブニングドレスに着替えさせました。
「相変わらず、あんたの趣味はゴージャスね。」
作者は皮肉を言うように顔を歪めましたが気にはしていません。あれは、彼女の照れなのです。昔から少女趣味に正直になれない性格なのです。
「はい。では、私も失礼しまして着替えさせていただきます。」
私もそう言ってスーツに着替えました。燕尾服でビクトリア時代の執事になるのも楽しいですが、今回はゆっくりと語り合いたいところです。
なにしろ、ただ、英文の小説を読んで要約し、感想を述べるだけの物語が、とんでもない長さで終わりが見えないのですから。
『アブラハムの大冒険〜これからエジプトに行ってチートマジシャンとしてスローライフを楽しみたい』
こんな題名のあらすじまで作ろうとして何時間も何かを書いているのですから、そろそろまとめてもらわないと。
「それで、アブラハムの物語は出来ましたか?」
私は作者の作った紅茶を注いでもらう。本来は私の方が美味しい紅茶を入れられると自負しておりますが、ハイティとなれば女主人がティーポットの采配を振るうのがしきたりです。
「いや。全然。謎ばかりが増えるんだ。」
と、作者は紅茶を淹れる。英国のアンティーク風のこのカップには英国でも愛される水仙の花が描かれています。
「どんな謎でしょうか。」
ああ、今こそ私は名探偵になりたい気持ちです。そして、この本から滲み出てくる謎をなんとか止めてしまいたいのです。
「なんかね、アブラメリンの魔法の本の話だと思うじゃない?でも、アブラハムは神様の話なんてし始めるんだよ。おかしいでしょ?で、ラメクは末の子だから特別だよ。見たいな話から始めるんだけれど、確かに、聖書では末の子が贔屓されるから、なんか納得していたんだけれど、それだと、アブラメリンは脇役っぽくなるじゃない?」
作者はそう言ってきゅうりのサンドウィッチを食べ始めた。ティースタンドのマナーは下段から食べ始めるのがマナーです。セイボリーには塩気のある軽食が置かれるます。
「そうですね。でも、結論は全て読んでからにして、全体を読んではいかがでしょう?」
私の提案を作者は眉間に皺を寄せて否定する。
「そうしたいけれど、なんだか、おかしいんだもん。アブラハムって名前は長男につけるんだって。聖書ではアブラハムはとても大事な人のようなのよ。で、本来はアブラムって言うんだって。で、神様に会って偉い人になってから『ラ』が追加されてアブラハムになったんだって。
私、アブラ ってところが何か意味があると思ったの。メイザースがわざわざ アブラ-メリンって表記してるんだから。でも、それはアブラハムとは違う意味なんだね。そして、日本でも90年代に『ラー』をつけるのが流行ったけれど、やはり、『ラ』はなんかすごいものの意味なんだね( ´ー`)
古代のエジプトの太陽神はラーだったし。」
作者はそう言ってハムのサンドウイッチを口にした。
「それで、ラ の話は関係あるのでしょうか?」
「え?ああ、まあ、ほぼ関係ないけれど、アブラハムの名前は関係あるのよ。アブラハムって長男につける名前らしいわ。だから、このグリモワールを書いているアブラハムは長男なはずなのよ。なのに未子の為の魔術書を書くのって変じゃない?」
作者は乗り出すように私に聞いた。
「そうですね。未子に権利がある魔術書なら、父のシモンは長男ではなく、末の子に、あ、そうですね、一つ、方法はありますよ。」
私の思いつきに作者は驚いた顔をする。
「え?どう言うこと?」
ああ、今、作者は私だけに集中しているのです。なんと良い心地なもでしょうか。
「一人っ子、と言うのはどうでしょう?長男で未子になりますでしょ?」
私の顔を見て作者は笑った。
「あ、ああそうね。昔の人は子供が多いって勝手に思っていたわ。はは。そうね。確かにそれなら解決するわね。でも、物語は少し複雑になるわね。」
と、作者は話し始めた。
我々にとって、この物語を探る作業は古い物語を動かす為の練習であり、人気ジャンルへ、ファンタジーの新作にたどり着くためのプロローグでもあるのです。
『アブラメリンの書』は、時代を超えて沢山の人たちを魅了した物語でもあります。ここで登場すキャラクターや設定は良質なファンタジーの種でもあるのです。




