カスケット
「もう、疲れたよ。なんか飲ませてよ。」
英文と格闘していた作者が私に助けを求めてきました。私は静かに立ち上がり、そして、愛しい作者のために心を満たす飲み物を作るのです。
少し疲れたこんな冬の日には、温かいミルクのたっぷりと入ったココアはどうでしょうか。そう考えてミルクを温めはじめると、私について台所にきた作者が甘えるように言いました。
「ホットミルク!!!!!ああ、素敵!ねえ、お菓子用に作っていたバニラ・エクストラクトを少し入れて作ってくれる?」
ああ、そんな甘えた顔で見上げられては従わないわけには行きません。
「わかりました。どうぞ、居間の方でお待ちください。」
私にそう言われて作者は嬉しそうに去ってゆきました。さて、付け合わせはどうしましょうか?作者が来ない時に作り置きした沢山の甘味を思い出します。そうですね。本日はりんごのジャムとクッキーをお出ししましょう。
「ねえ、この話、結構、面倒くさいわね。」
作者はホットミルクで一息ついてから私に言った。
「そうですね。本当に、一筋縄ではゆきませんね。」
私もため息が出ました。ああ、ただ、英語の本を読んで感想を書く。それだけの作品が、なんだか厄介な展開になるのはどうしてなのでしょうか?
「うん。なんか、翻訳もネットに任せるだけではダメなのがわかったわ。」
作者が渋い顔で説明を始めた。
この本の初めの部分では、作者、アブラハムの初めの言葉が書かれている。
それによると、アブラハムは彼の父であるシモンから継がれた何か魔術的なものを息子に残す事にしたらしかった。
そして、翻訳をそのまま鵜呑みにすると、棺に鍵をかけて入れて置くと表示されるのです。
そこで、作者は霊廟のようなものを想像して、日本の3回忌のような仏事のようなものがユダヤ教にもあって、棺を開けるのではないかと想像して悩んでいました。棺といえばアブラハムの亡骸が入っているのでしょうからそれを開けるというのは流石に恐ろしい感じがしないのか、と、モヤモヤしていたのです。
そこで、色々と調べていて、西洋の霊廟が金持ちのものは家のような感じらしいから(キリスト教というのが心配だったが)何か収納できるところがあるんじゃないか、とか、さまざまに考えたその挙句、英文の棺という言葉には、宝石箱のような大切なものをしまう箱の意味があるのが判明したらしかった。
「本当に、言語圏が違うと色々と用心が必要ね。」
作者はため息をつく。
「そうですね。」
「うん。別名シャスともいうらしい。棺と宝石箱が同じって、なんだろうね。やっぱり、盗掘とか墓泥棒からきた言葉なのかな(o_o)」
「どうも、教会や聖地の意味合いからのようですよ。あちらでは教会に埋葬されたりしますから、その辺りからのイメージのようです。」
「ああ、そうね。キリスト教は、聖人とか偉い人を教会の床に埋葬しているわよね。日本人の私には、人に踏まれるところに埋葬されるのも、なんだかな、って気持もするんだけれど。」
作者は苦笑する。
「まあ、それはともかく、物語を始めましょう。ええと。
『アブラハムの大冒険〜これからエジプトに行ってチートマジシャンとしてスローライフを楽しみたい』
を考えるのでしたね。」
さて、どんな話になるのやら。
「…なんか、改めて聞くとなんだか恥ずかしいわね。」
「でしたら、『アブラハムの大冒険』にしてみてはどうでしょう?」
「いやよ。私はこれでも令和のWEB作家なんだから。一度くらい、長い題名で成功したいんだもん。そして、長い題名だと、検察するとAIが感想とかあらすじを書いてくれるんだもん。」
作者は口を尖らせて文句を言いました。
「では、この名前で。ついでに今風に短い呼び名も決めませんか?アブラハムのスローライフで『アブスロ』なんでどうでしょう?」
「え?パチモン臭いわ。」
「では、『アブライフ』では…これも、なんだかどこかで聞いたフレーズみた意ですね。」
「うん。短縮しなくていいよ。でも、長文の題名は、短縮にいい感じも考えないといけないのは学習したわ。ま、それはともかく、アブラハムの話を始めましょう。」
作者はそう言って、何か景気のいいBGMを私に頼んだ。
さて、どうしましょうか?少し考えて、私は水の精霊を呼び出してピアノ伴奏を頼みました。そして、私は作者の横でヴァイオリンを聞くのです。
マスネ『タイス瞑想曲』を。




