トラベリング2
ここで作者はノートを取り出して何やら書き始めた。それは物語のプロットのようなものだった。題名は『アブラハムの大冒険〜これからエジプトに行ってチートマジシャンとしてスローライフを楽しみたい』だった。
「また、話を増やすのですか?」
私は呆れた。作者はそんな私に無邪気な笑顔を向けた。
「いいじゃない。私たち、いつまでもこんなことはしてられないわ。収益化に登録して頑張ってきたけれど、このままじゃ、いつまでも味噌カツも味噌おでんにも辿り着けないわ。」
「味噌カツと味噌おでん??」
「そうよ。昨年、奇跡的にモーニングを食べられるだけの金が手にできたわ。でも、それで満足したらダメな気がするの!!やはり、あと少し欲を出して、味噌カツと味噌おでんをなんとか原稿料で手に入れたいの。でも、このままじゃ、何年頑張っても貯まらないわ。やはり、人気ジャンルを目指さないといけない気がするの!」
作者は口を真一文字に結ぶ。
「………それは随分とクドイ願いですね。」
ああ、何もここまで味噌にこだわることもないと思いますが。
「そうね。私もそう思う。名古屋に行って、朝から盛りだくさんのモーニング、ランチに味噌カツ、夕方味噌おでんとか、なんかすごいと思うわ。でも、それが剛の夢だったんだもの。
中年のおっさんが、人生で願った夢。女でも、真似でもなく、それが名古屋もモーニングと、なんか味噌料理。
私も、クドイって思う。でも、そのクドさを体験しないと、真実は見えない気がするの!!
私だって、名古屋に行くなら、もう少し足を伸ばして鳥羽に行きたいわ、そして、真珠とかを見たいし、乱歩のゆかりの場所を巡りたいわ。伊勢にも行きたいし、伊勢うどんも食べたいし、あの、謎醤油を手に入れたいわ。ねえ、伊勢にはうどん用の醤油があるらしいのよ?
私だって、現金を手にしたら、本当に味噌カツを食べるのか、不安にもなるわ。でもね、今はそんなことはどうでもいいのよ。本当に稼げるか、今の実力だと不確かなんだから。
でも、物語には『核』がないと盛り上がらないから、私たちは味噌カツを目指さないといけないのよ。」
作者は言ってる事とは真逆なキリッとした顔で私を見た。
「物語の核?ですか。」
私は作者の発言で唯一、共感できそうな所をピックアップした。
「ええ、そう。学生時代、私は冒険小説を書いた事があるの。確か、タイムスリップしてインカ帝国に行くみたいな話だったと思うわ。そして、主人公は確かに宝に辿り着いたの。
地下の秘密の部屋で唸るような黄金があったわ。
でも、ただ、それだけだったの。ハリボテのように輝く金塊の部屋を。本当にそれだけだった。冒険の物語は、そのエンディングを書いてから、ただ、たどり着くだけではいけないんだって思ったわ。」
作者は少し寂しそうに笑った。
「学生時代の小説と、味噌おでんに何の関係があるのでしょう?」
「関係は、関係はあるわ。いい?物語にはエンディングが必要なの。とっておきの、エンディングがね。でも、みんなそこに行く前に迷ってしまうのよ。そして、いいエンディングに辿り着くには、物語に核が必要なんだと思うの。」
「それが味噌おでん、なのでしょうか?」
「そうね、正確には少し違うわ。剛にはそれが味噌おでんと味噌カツで、私には新たな、金になるファンタジーのキャラクター。この『アブラメリンの書』は本当に魔法があるのよ。
メイザースの名前を上げて、クロウリーに新たなキャラ、アイワスをもたらして、そして、数多のゲームやラノベに夢と冒険を見せた書なのよ。
この本を読み終わる頃、私は金になるキャラクターを手に、夢の人気ジャンルへ行くの!」
作者は強く叫んだ。一瞬、私の心に熱いものが込み上げてきました。
この本を読むために、テンションを上げるに冒険ゲームのBGMをかけてたのもありますが、それでも、私には作者が戦闘前のアルテミスのように美しく輝いて見えたのでした。
彼女についてゆきたい。どこまでも。そして、この夢の結末を見てみたい。そう、思いました。
結末に待つのが、味噌カツと味噌おでんだと思い出すまでは。
「金になる、キャラ、ですか。あまり、上品とは言えませんね。」
味噌おでんの事は記憶から消し去ってしまいましょう。
「はは。まあ、品はいいんだよ。とにかく、この本を読み終わるその時までに、私は最強キャラを作り上がるんだから。」
作者は笑った。
「わかりました。あなたが望まれるのでしたら、『アブラハムの大冒険〜これからエジプトに行ってチートマジシャンとしてスローライフを楽しみたい』を全力で考えてみましょう。」
私はそう言った。
確かに、『アブラメリンの書』はメイザースの名前を魔術史に刻みつけました。
クロウリーもまた、有名にはなりましたが、自身以上の最強キャラはいないと、私は思うのです。
それでも、貴女がそれを望むのであれば、私はそれに従うまでです。




