S・L マグレガー・メイザース
「やられたわ。」
作者は怒ったように呟く。
「リンカーンのことですか?」
私が聞くと作者は私を睨む。
「違うわ!まあ、驚いたけれど、それ以上に、メイザースという人物を考え違いしていた気がするわ。」
作者はそういった。
「どういう事でしょう?」
私の言葉に作者は肩をすくめた。
「私、アブラメリンの書に力があるんだと思ってたよ。でも、逆の場合もあるって事に気がついたのよ。」
「逆?ですか。」
「うん。そう、WEBで小説なんて書いてなかったら、私も、オカルト雑誌に書かれているような設定を揺るぎなく信じていたと思うの。」
作者は渋い顔で私を見た。
「話してください。」
メイザースの事なんて考えないで欲しいと思いました。でも、何を考えているのかを知りたいと思いました。作者は私を見て、困ったような渋い顔をして話を続けた。
「私は考えを固定していたの。魔術というものについてね。古書にアブラメリンやトート、イシスに絶大な力があって、我々はその力を借りるようなイメージだったのよ。
でも、こうして日夜、WEBファタジーの考えて、ゲームについて調べていたから、違う考えも出来ることに気が付いたのよ。」
「ビデオゲームの世界ですか?」
「そう、ゴールデンドーンの魔術、メイザースが開発した魔術をリアル体験ゲームと考えると、メイザースはゲームクリエーター。
現在でも、さまざまなゲームは生まれて、アブラメリンはネットを通じてさまざまな魔術を披露いているわよね?アルセナル図書館のアブラメリンの書に効力があっても、なくても。」
作者はそこでコーヒーを飲んだ。
「つまり、メイザースはプログラマーという事でしょうか?」
「うん。メイザースは原動力が必要だったんじゃなくて、売れるストーリーを探していたんじゃないかって気がしてきたのよ。」
作者は眉間に皺を寄せる。
「それなら、自分で新しく魔術を作ればいいじゃないですか。こんな面倒なことをしなくても。」
「そうかしら?じゃ、なんで、ゲーム会社の人たちは私たちのようなWEB作家にストーリーを求めるの?
私も、こんなことしなきゃ考えなかったけれど、ゲームにおいてのストーリーは結構大事よ。ただ『輩が集まってドンパチするゲーム』と、『アーサー王と聖杯探索』の二つのタイトルがあったら、どちらが売れると思う?」
作者はコーヒーを飲み干し、私は新しいコーヒーをつ繰り始めた。
「アーサー王のタイトルですね。」
「でしょ?ただ、殴ったり、戦いたいという人はそんなにいないのよ。ついでに、ストーリーのないタイトルで功績を説明すると、殺した人数を誇るだけの野蛮な事になってしまうわ。」
「確かに、でも、それなら有名な話をベースに考えた方がいいのではありませんか?」
私は出来上がったコーヒーをゆっくりと作者のカップに注ぐ。
「あら、現在のゲームでも、人気の設定はたくさん出ていて目立てないし、初めに出した老舗に権威を取られてしまうじゃない。
それに、動作に関するプログラムには著作権があるし、出来る事、目立たせたい動作のプログラムがあるわ。動作のプログラムと、ストーリーがマッチングしてこそ、ゲームは売れるんだともうの。」
作者の言葉を聞きながら私は笑った。
「ゲームの話になっていますよ。」
「…いいのよ。でも、そう考えると、色んな事の辻褄を合わせて行けるわ。
この考えだと、ジュール・ボアが、ブーランではなく、無名の高卒のメイザースを肩入れしていたのも、ブーランがアブラメリンの魔術に興味を示さなかったのも説明がつくわ。」
「まあ、面白い仮説、ですね。」
私の言葉に作者は嫌な顔になる。
「面白くなんてないわよ。面倒臭い。こうなってくると、近代魔術の根本も変わるし、魔法というより、メスリズムや心理学に近い行為として話を進めてゆくことになるんだもん。」
作者は頭をかく。私は作者の手に自分の手を置いた。
「ティータイムに頭を掻くのは品があるとは言えませんよ。それに、事実はどうあれ、まずは本を読んで行く事が大事ではありませんか?」
私の言葉を作者は黙って聞いていた。
「そうなんだけれど、なんか、気になるのよ。でも、いいのよ。きっと、私、電子書籍とインターネットがなかったら、英語の本なんて読めなかったと思うもん。まさか、こんなに見える風景が、日本語版と英語版で違うなんて思っても見なかったわ。言葉にはその引き出しに沢山のエピソードが入っているのよ。文法の縛りを解いてみる先にこんな世界が広がっているなんて思わなかったわ。」
作者はため息をつく。落ち着いてきたのがわかったので私は着席した。
「これから、アブラハムの面白い冒険の話が飛び出してくるかもしれませんよ。」
「アブラハムより、メイザースよ。魔術絡繰師としてのメイザースを考えて成功した人間はいないと思うもん。そして、この世界観で話を作り上げられれば、ワンチャン、ゲームストーリーの原案で拾えるかもしれないじゃない!」
作者は叫んだ。
「金鉱が、見えたのですね。」
ああ、貴女は幾つの金鉱を絶望的なWEB作家の地獄の底に見つけるのでしょう?




