セレブレット・オカルティスト2
いいんです。もう、笑ってください。私はデザート以外で作者を引き止める方法なんて、バイオリンを演奏するくらいしかないのです。
『ラ・カンパネッラ』を。この曲は様々に編曲をされたりしますが、原曲はヴァイオリン曲で、作曲したのはパガニーニという人物です。あまりにも難度のある指裁きの演奏のために彼は悪魔と噂されました。
せめて、クラッシックの悪魔に扮して、作者の気持ちを慰めようと思うのです。
「相変わらずすごい演奏ね。」
作者が私に笑いかけてくれました。パガニーニは19世紀のイタリアのヴァイオリニストです。ホームズがヴァイオリンが好きなのは、同じ世紀を生きた天才パガニーニの影響を疑う人もいるくらいなのです。
「ありがとうございます。あの、紅茶でも淹れましょうか?」
私は嬉しそうな作者の笑顔を消したくなくて、つい、小説の話をはぐらかしてしまうのです。
「わかった。入れるわ。たまには私が。」
と、作者は立ち上がり、冷蔵庫のアイスティーを取り出した。
「わかってるわ。あなたは私のガサツなお茶は好きではないってことぐらい。」
作者はそう言って笑いますが、そんなこと、私は思ったことはないのです。
作者はガラスのコップに私の作ったアールグレイを入れると持ってきた。
「はい、おちかれさま。」
と、作者は私にグラスを渡し、ソファーに座った私の横に座った。
「なんだか、こんがらがった色々が見えてきたわ。」
作者は話し始めた。
作者が引っ掛かっているのはメイザースによる序文でした。普通なら、読み飛ばされるようなものですが、英語の読めない作者は簡単そうな序文を読みながら先のことを考えていました。
この序文は、まずは図書館の話。そして、レビィーをはじめとした人物の事とこの本を見つけた動機のようなものが書かれていました。
基本、そんな事は内容とは関係ないので、特にこの本はメイザースの著作ではありませんから、訳者の発見譚など読み飛ばされたのでしょう。
しかし、小説にすると変なことに引っかかる私の作者は気になったようでした。
何が?というと、いろいろな名前が登場する中で、この初めに書かれたセレブレティなオカルティストだけは名前がないということでした。
「おかしいでしょ?死んだといえば、レビィだって75年には亡くなっているんだもの。思わせぶりで、それでいて、どうでもいい感じ。
でも、メイザースは、このセレブに初めに話を聞いたって書いてるの。アブラメリンの話をね。
これ、何か知らないけれど、都市伝説みたいなものだったんだと思うわ。メイザースの界隈では、ね。」
作者は難しい顔で私に言った。
「そうですね。確かに、序文でリットンやら、レビィを書いて、この人だけかかに理由はわかりませんね。」
私も難しい顔で作者の横で考える。
「もう、この人、本当にわからないわ。多分、昔、薔薇十字とかフリーメーゾンと関係のある人物から、アブラメリンについて聞いたことがあったらしいのよ。
で、なんでか知らないけれど、ドーンの首領になったあたりの知り合いのジュール・ボアとかにその話をされて、フランスの図書館で見つけれとか、なんだか詐欺にあったような気持ちになるのよね。」
作者は渋い顔をする。
「ですから、詐欺の線は薄いと結論をつけましたよね?」
「そうね。メイザースは貧乏で、彼のお金は狙えないわ。でも、インチキの権威をつけるというのなら、使える人物ではなかったのかしら?」
作者は難しい顔でタブレットを見つめる。
「権威付ですか。メイザースの認めたものなら、そこからのグッツを富裕層に買わせるというのは、確かにありそうですね。」
私も嫌な予感がしてきました。レヴィとかリットンを全面に展開するオカルト歴史に怪しさが滲みます。
「うん。それから、フランス語で書かれたアブラメリンの書というもの変な気がするんだよね。」
作者は渋い顔で深くてため息をついた。




