到着
しばらくすると、クリーム色のセーターの作者がやって来ました。
「ねえ、なんで冬設定にしたのよ。」
作者は少し不満そうです。
「でも、クリスマスですよ?それとも、ケーキもチキンも必要なかったでしょうか?」
私の言葉に作者は慌てました。
「え?チキン、ケーキもあるの???」
「はい。他には小エビのシーザーサラダ、マッシュルームとソーセージのクリームパスタ。本日は特別にホールプリンのケーキもご用意したのですが…春のイメージに変更しますか?」
「いやっ。時影のプリンのケーキ食べたい!!私、冬って大好きよ。」
作者は私にしがみついて叫びました。ああ、なんという至福の時でしょう。
私は作者を見て微笑みました。
「さあ、どうぞ奥へ。暖炉が温まっていますよ。」
私は作者を誘います。素敵な物語が始まる予感がします。
食事は和やかに進みます。私と作者。そして、素晴らしい音楽。
様々な時代のクリスマスソングを再生しながら食事が進みます。
私たちは楽しく語らい、そして、デザートを食べ終わった時点で作者が切ないため息をつく。
「さて、始めないとね(T-T)なんかさ、勢いで買っちゃったけれど、私、英語の本なんてマトモに読了した記憶がないわ。」
作者はそう言って立ち上がる。
「どうぞ座っていらしてください。私が片付けます。」
私が慌てると、作者は笑った。
「今日は少し楽をしてもいいと思うよ。魔法で。」
作者が右の人差し指をくるりと回した。私は肩をすくめる。
そう、ここは作者の想像の世界。私は簡単な魔法が使えるのです。
私は立ち上がってワゴンを持ってくる。
「いいえ。ここは私が片付けます。どうぞコーヒーのおかわりを。」
私は皿を片付け始めた。魔法を使うのは簡単ですが、それでは食事は美味しくはならないのです。そして、こうして片付けるこの瞬間、私は作者と過ごしていると実感できるのです。
「さて、始めよう。もう、これも投稿しないと、きっとそのままになりそうだもの。そうしたら、わらしべ作戦がフイになるわ。」
作者はタブレットを見つめる。
「わらしべ作戦。本当におやりになるのですね。」
私はため息をつく。わらしべ作戦とは、童話『わらしべ長者』にあやかって、安価な著作権切れの作品のあらすじや解説をしながら投稿、本題を稼ぎ、高価な本に手取りつくというチャレンジ企画です。
「そうよ。私、頑張ったわ。苦節8年。やっと1年頑張って100円は稼げるようになったわ。でも、100円じゃ、著作権が切れてない資料は買えないんだもん。」
作者が頬を膨らませた。
「本当に、そんなに上手く行くでしょうか?」
私は少し心配になります。こういった欲が絡んだ企画をすると人は結果が伴わない場合、そのまま書かなくなるのです。
「上手くいかなくてもいいのよ。そん時は自分で買うから。それより、今回買った本を読了しないと100円損するじゃない!はぁ。私、思い出したの。こんなポンつくな企画を考えて本を買ってそこで思いさしたのよ(T-T)そういえば、人生に何冊か格好つけて英字の本を買ったけれど、一つも完読してない事に。」
作者はそう言って昔話を始めた。私は薪のはぜる音を聞きながらミルクティーを入れた。
作者が初めて買った英字の本は『ジギル博士とハイド氏』でした。当時は英語と日本語の翻訳がついた本が学習用に売っていました。英語の学習に国をあげて頑張っていた時代でした。
なぜ、『ジギル博士とハイド氏』だったのか。それはそのシリーズの1巻がそれだったから。そして、作者は日本語訳がついているから読むのは楽ちんだと考えていた。
「笑わないでよ。もう。仕方ないでしょ?やった事なかったんだもん。それに一度は読んでみたいと思っていたのは本当なの。本当は『シャーロックホームズ』とかがよかったわ。でも、著作権が切れてない買ったから学習用に安くは作れなかったのね。それに、多分、専門用語とかが出てきて嫌になった気がする。」
作者は眉間に皺を寄せながらボヤいた。
「では、何でこんな事を考えたのですか?」
私は呆れた。
「うるさいわね。これが1番、コスパが良かったのよ。それに、送料を使わずに100円で買えると言ったら、電子書籍が1番だったんだもん。」
作者は渋い顔をした。
「そうですね。それは認めます。」
私もため息をつきながら同意した。そう、古本の中でも英字の書籍は入手しづらいと言うのもあって単価も高めです。その上、魔術の古い著作と言ったら数千円はする上に都会の古本屋を回るしかありません。
「そうでしょ?『アブラメリンの書』なんて、まさか読めると思わなかったもん。学生時代はオカルトブームで、なんかすごいツテがないと入手できない幻の作品扱いだったもん。それが、なんと100円で買えるんだもん。なんか、勢いで買っちゃったのよ。まあ、さ、セールだったのもあって、この時を逃したら値上がりするって雰囲気してたし。つい、勢いで買ったのよ。」
作者は少し恥ずかしそうに俯く。
わらしべ作戦は後付けですね。
私はなんだかおかしくなりました。でも、笑顔にならないようにカップでそれを隠します。
穏やかな暖炉の炎を見つめながら、私はこれが幸せではないかとそう感じたのでした。




