エリファス・レビィー
作者は静かにメイザースの前置きを読んでいた。
そして、私に話し始めた。
前置きというのは作品を完成させて最後に、本を買ってくれる読者に向けて書かれるものです。
いわば、作者の読者へのラブレターのようなものです。
「小説なんて書くことがなかったら、前置きなんてあんまり気にしてなかったわ。」
と、作者はぼやいた。
つまり、この前置きは、偉大なる19世紀の魔術師が本を手にする全ての人たちの為にだけ書く文章なのです。
作者は何度かその短い文章を翻訳と英文を変わるがわる読んでいました。そして、しばらくすると甘えたように私にミルクティーをねだるのでした。
私は何も言わずに頷いて、キッチンでミルクを沸かし始めました。チャイを作ろうと思いました。
砂糖とコリアンダーを気持ち多めに、作者の気持ちが安らぐように。
「本当に残酷よね。前書きって。この時点でメイザースは揺るぎなく自分の成功を信じていた違いないのですもの。まあ、書籍化しただけで凄いとは思うんだけれど。
ここに来て、なんでパリにメイザースが行きたがっていたかが分かったわ。 レビー聖人がいたからなのよね。」
作者は切なそうに苦笑した。
レビー聖人…エリファス・レビーはフランスのオカルティストで詩人。
近代オカルトと、サブカルチャーの基盤となった人物と言えるような存在です。
前書きにはレビィーの名前と共にリットンの名前もありました。
この二人は、オカルト界隈に影響を与えた人物です。
「本当に英子は便利よね?よく分からないメイザースを掴むいいモデルだわ。」
チャイの甘みに酔いながら、作者は束の間の物語を始める。
英子の生まれた1954年は終戦から10年の年でした。随分と世の中は発展してきましたが、まだ、まだ、日本は終戦の傷が癒えずにいました。
英子は浅草の小さな食堂の2階に母と間借りをして、夕方の忙しい時は食堂を手伝い、賄い飯と家賃を少し安くしてもらっていました。8歳になった英子も母親を手伝って食堂の給仕や注文をとって手伝っていました。メイザースのように海外の移民はいませんでいたが、都会に出稼ぎに来た地方の人達やら芸人、流れ者のような人物と触れ合う機会があり、そして、可愛がられていました。
メイザースの生まれた1854年は、48年フランスで起こった2月革命から6年目の年でした。
ヨーロッパでは度重なる紛争や戦争で不安定な状態でした。
王族や貴族はイギリスに亡命をし、貧しい人もまた、イギリスに移民をしてきたのでした。
二人とも、混乱する社会の中でそれでも、未来に夢を見て暮らしていたのだと思います。
少年メイザースには、リットンの様々な冒険譚
英子には子供用の漫画。
どちらも、夢と希望と、少しばかりの恐怖が混ざった夢の作品だったに違いありません。
「リットンはダンディでイケメンの小説家。そして、政治家でもあったわ。そんなことろでも、親もリットンの小説を読む事に問題を感じることはなかったと思う。
そして、当時の少年の夢と憧れがあったと思うのよ。私が子供の頃、漫画家に憧れたように。
そして、リットンはレビィーと交流があった。もしかしたら、メイザースはリットンの小説からレビィーと魔術に傾倒したのかもしれないわね。
それにしても、2月革命かぁ。
この辺りで、フランスに社会主義の思想が流行るのね。レビィーが社会主義と魔術を混ぜようとした背景を知ったわ。
それにしても、面倒くさいわね。」
作者は苦笑した。
「そうですね。そこまで考えないで進めてもいいとは思いますが。」
私の言葉に、作者は嫌な顔をした。
「ダメよ。いい?このアブラメリンの書を翻訳した人の殆どは、大学出の人物で、魔術を中心に語っているはずよ。メイザースとクロウリーのダブルキャストで書かれた本だから。どちらに寄せるか問題だし。
普通は翻訳者ではなく、アブラメリンとアブラハムの事を中心に話を盛るのよ。
だから、昭和を絡めてこの本を解説する本は多分、存在しないはずよ。
そして、長年、こうして底辺で小説書いてる私だからこそ、書籍化したメイザースの喜びや、悲しみの文が生きてくるんじゃない!
金を借りて苦労して書籍化、そこからの120部の爆死。
弟子の若造にパクられ、そして、そいつはそこそこ売り上げて、本来、メイザースが手にするはずの栄光と賛辞を持っていかれたのよ。
WEB小説で好かれるテンプレ満載で、この本、こんなに面白いとは思わなかったわ。」
作者は困ったように笑った。
「……… 貴女の感性があればこそ、ですよ。まさか、出来の悪い貴女の事を呆れていた歴代の英語教師の方々も、まさか、貴女が19世紀の英文を翻訳して発表しようと考えるとは思いもよらなかったでしょうね。」
「そうね。私も、動詞とか現在進行形とかいうワードがなくなって、翻訳機能があると、こんなに英語の本が面白くなるなんて思わなかったわ。
思えば、私、英語の教科書で覚えてるのって、キャシーの恋の行方くらいだもん。
これからの外国語の授業は、少し変えて行ったほうがいい気がするわ。
ネットの翻訳機能を使って、もっと多言語で会話ができるように整備したほうがいいと思うわ。
もう、既に、海外由来の子供が増えているし、使える機能は使って、翻訳の機能やAIも、信用できるクリーンに学習したものを子供たちと一から作るのがいいと思うのよね。
まあ、そうであっても、翻訳じゃなくて、完読する話ね。
そして、メイザースという人物が、この本を見つけて、そして、頑張って翻訳した。その物語を語るだけなんだけれどね。
それにしても、『ゲーティア』にたどり着けるかしら。
なんだか、100円のこの本で私のライフが終わりそうだわ。頑張らないとね。」
作者は笑った。
1950年代といえば、手塚治虫の漫画だと思うけれど、これも書けないんだろうなぁ。
リットンの小説が様々に政治や秘密結社に使われてるし、並べるのは少し、怖いもんな。
でも、リットンの小説自体は怪奇ものとか、SFや少年漫画の走りみたいで悪くはないと思うんだけれどね。
面倒臭いな。
誤字多めですいません。指摘されたことろを直そうと思ったのですがよくわからないし、ちょっと、ザノーニを調べないと話が進まないので、気がついたら直します。ごめんなさい。




