第41話 現部長からの提案
「でも急に二人きりになりだなんてどんな風の吹き回し?」
購買に向かう途中、溝口がチラっと上目遣いで質問してきた。マジでさっきから上機嫌だな。
「たまには良いだろ」
「良いけどさ〜。何か企んでない?」
言葉とは裏腹に滅茶苦茶楽しそうじゃん。竹之内さんや太田さんと仲良さそうに見えたから二人嫌がるかと思ったんだが。
「企んでない。さっきも言ったろ。話があるって」
「今じゃ駄目なの?」
周囲には人がたくさんいる。こんな所で話す内容ではないな。
「ここじゃ駄目だ。他の人がいるからな」
「へ〜、ふ〜ん」
こいつ、ニヤニヤしてムカつくな。お前が悩んでるんじゃないかって心配して話そうとしてるのによ。マジで話終わったら頭グリグリしてやろうか。
その後、俺達は購買でパンやらおにぎりやらを買って中庭に来た。周囲に人はいるが離れているしここなら話ができるだろう。俺達はベンチに並んで座る。
「じゃあ、本題に入るか」
「えっ、もう?心の準備が出来てないんだけど」
心の準備ってなんだ?もしかして俺の話す内容が分かってるってのか?まあ、それならそれでいいか。
「悪いが聞くぞ」
「う、うん」
溝口はゴクッと音がする程、喉を鳴らして待っている。
「お前、部活辞めるかもしれないってホントか?」
「ん?」
「ん?」
溝口は困惑しているのか思い切り首を傾げた。俺もよく分からず首を傾げる。傍目から見たらお互い見つめ合いながら首を傾げている妙な連中だろう。
「あ、あんたが二人きりになりたいって言った理由ってそれ?」
「ああ、それ以外無いけど」
溝口は何故かずーんと落ち込み始めた。どうしたってんだ、こいつは。
「あ、あんたねえ。期待させるような事言っておいて」
「期待って何をだよ。良いことだなんて一言も言ってないぞ」
溝口は「確かに言ってないけどさあ」となんとかぶつくさ言い出して拗ねだした。いいから、俺の問に集中してくれ。
「で部活辞めんのか?」
「それを知ってるってことは岬か……。いつの間に仲良くなってんの?」
「話を逸らさないでくれ。先に俺の質問の答えを教えてくれないか」
「……、辞めるかもしれないっていうのは本当。まだ考えているだけだけど」
「何で?中学から必死に頑張って来たんだろ?嫌なことでもあるのか?」
「嫌なことは無い。ただ……」
溝口は答えに窮して、俺の顔をチラッと見た。え、俺は関係ないはずだろう。
「俺が何かしたのか?」
「違う違う。峻が悪いわけじゃない……。それにフェンシング自体を辞める訳じゃないし」
「あっ、そうなのか?」
「クラブチームとか、それか専門のコーチを雇う事にするかも」
まあ、その一言が聞けたならまだ安心だ。流石に全国クラスの人材が競技を辞めるつもりはないらしい。てことはやはり部活が原因としか考えられない事になるが。
「部内に嫌いなやつでもいるのか?」
「いや、まあ嫌な人はいるけど。それが辞める理由ではないかな」
人間関係じゃないならますます分からないな。練習が嫌になったであれば競技自体辞めそうだし。
「部活、辞めるの決まってるのか?」
「いや、顧問とか部長とかに話さないとだね。きっと止められると思うし」
そりゃそうだろう。溝口という実力者を引き止めない部活はない。でもどうしたものか。工藤さんとしては当然辞めて欲しくないみたいだしそれだけは伝えておくか。
「工藤さんはお前に辞めて欲しくないみたいだぞ」
「岬には悪いけど、私は部活辞めるつもりだから……」
溝口の決心は固いようだ。こりゃ俺が止めるのは無理か。工藤さんには悪いが溝口がこういうのだから仕方がない……。
「それは認められないな」
後ろから声がすると思って俺達は後ろを振り向くとそこには俺と同じくらいの身長でキリッとした目つきの美人がポニーテールを靡かせて立っていた。
「部長……」
溝口が目を細めながら呟く。この人が女子フェンシングの部長なのか。確かに何か強者のオーラが出ている。
「溝口、お前程の実力を持っている者が居なくなるのは看過できんな」
「ですけど……」
部長さんは腕を組んでベンチに座っている溝口を見下ろしている。ポーズのせいか余計怖い。溝口、こんな怖い人と一緒に練習してるのか。
「それに私が引退した後のエースは間違いなくお前だと思っているし、お前にやる気があれば部長に推薦しようと思っている」
え、溝口ってまだ一年なのに部長やってくれって言われる程認められてるのか。
「部長いくらなんでも買いかぶりすぎですよ。私はそこまで凄くないし、部長なんて柄じゃありません」
「そうか?私が思うに部内最強の人間が引っ張るべきだと思うがな」
仕方がないけど俺の存在を無かったことにして話がどんどん進んでいくな。ていうか全国レベルの部活ってこんな感じで殺伐としてるのか。
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