第31話 名前を呼んで
「今日は楽しかったです」
俺達は近くの駅まで並んで歩く。竹之内さんはタクシーか家の車を呼んでそのまま帰るのかと思っていたら俺が歩くと知って一緒に歩きたいと言い出したのだ。
「俺も楽しかったよ。近所のプラネタリウムとは全然違った」
まあ、規模以上に変な雰囲気の方にタジタジになっていたが。
「プラネタリウムもそうですけど、戸松君と一緒に来られたのが嬉しかったですよ」
「そ、そう」
ええ、何それ、男子にそんな事言っちゃったら勘違いしちゃうよ?まあ、俺だから良かったものの。おかげでプラネタリウムの事を思い出して胸の鼓動が収まらない。
「あの、ずっと思っていたのですが私達って戸松君、竹之内さんと呼び合っているの他人行儀ではありませんか?」
「そ、そうかな?」
でも俺からしたら竹之内さんって感じだし竹之内って呼び捨てにするのは何か違和感あるなあ。逆に竹之内さんが俺の事を戸松って呼んだら従者みたいな感じしないか?
「ええ、なので私の事を美帆と呼んでくださいますか?」
「へ」
俺の口から間抜けな音がでてしまう。呼び捨てって下の名前の事ォ!?俺は困惑してフリーズする。
「嫌ですか?」
「い、嫌とかじゃなくてさ。何か恐れ多いじゃなくて……、ちょっとハードル高いかなってさ」
「むむ……」
竹之内さんは眉間にシワを寄せて何かを考えている。俺、そんなにおかしな事言ってないよな?
「私達、デートした仲なのに……」
「……」
これってデートなのか?いや二人でプラネタリウムってそりゃデートか。いや、でも俺達付き合ってる訳じゃないし。
「ま、まあ、もっと慣れてきたらってことで……」
「プラネタリウムで並んで寝転んだのに」
そりゃそうなんだけど!!でもいきなり美帆呼びは厳しいものがあるって。ていうかプラネタリウムも竹之内さんが絶対に譲らなかったからだし。
「はあ……、分かりました。いずれ呼んでくださいね」
「かしこまりました」
うう、結局竹之内さんの圧に負けてしまう。何でそんなに名前呼びに拘るんだろう。
「私が峻君って呼ぶのも駄目ですか?」
「そ、それならまあ良いかな……」
俺が呼ばれる分には恥ずかしいは恥ずかしいのだがまだマシな気がした。いや、気がするだけだなこれ。
「言質取りましたからね!!」
俺達は話すのに夢中になっていたからか、いつの間にか駅に着いていた。俺の顔を覗き込む。
「わ、分かった」
「じゃあまた明日。峻君!!」
竹之内さんは満面の笑みを浮かべて手を振る。俺もそれに手を振り返す。そうしているうちに竹之内さんの家の車が来たので竹之内はそれに乗り込む。車の窓を開けてまで俺に手を振り続け車が走り去っていった。
「さて、俺も帰るか」
ふとスマホを見ると溝口からのメッセージが滅茶苦茶来ている。正直面倒だと思ったが無視するのも感じ悪いよなあ。俺は諦めてメッセージを送り返す。
『返事が来ないということはこんな時間までお楽しみか』
『今、終わったよ』
『む、性欲の権化が現れたな』
誰が性欲の権化だ!!一緒にプラネタリウム行っただけだろうが。いや、ちょっとていうか大分変な気持ちになっちゃったのは男の子なら仕方無いと思う。うん、俺は悪くない。
『性欲の権化な訳あるか。健全に遊んだだけだ』
『健全な遊びって言い方がもうエロいじゃん』
もう何言っても無理じゃんこれ〜。こいつ俺を性欲の権化にする気満々だもん。
『で』
『で、だけじゃ分からん。何が聞きたいんだ』
俺がメッセージを返しても返事が来ない。先程までテンポよくやり取りをしていたんだが。何か急用でも出来たんだろうか。
『告白でもされた?』
『は?』
こいつ、マジで何言ってるんだ?竹之内さんが俺に告白なんてするわけ無いだろうに。全くふざけたやつだ。
『お前の心配するようなことはない』
『心配なんてしてない。調子に乗るな』
別に調子になんか乗ってない。お前が変なこと聞いてくるからだろうが。まあ、良いや。
『で、今度は私を何処に連れてってくれるのか楽しみだな〜』
そういえば、コイツをどっか遊びに連れて行くって約束しちゃったんだった。
『良いけど、その前にテスト勉強だぞ』
『……』
待てど待てどもメッセージが来ない。こいつ、テストの話になった途端、メッセージ送るの止めやがった。いくらスポーツ推薦だからって勉強しなくて良い理由にはならんだろ。まあ多少点数が悪くても部活で結果出せば良いんだろうけど。だからって赤点までいったら補修とかもあるだろうし。
『みんなでテスト勉強するんだからお前も頑張れるだろ?』
『分かった……』
まあ、こういうところも溝口の可愛い所なんだけどな。
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