第24話 過去 溝口さんとの出会い
【溝口真由子 過去】
私は中学受験の時、元々芦月学園に行こうと思っていた。芦月学園はフェンシング部の強豪として有名で、全国にもよく出ているし都内でフェンシングをやるとしたらここだと思っていたからだ。しかもそんな学校からスポーツ推薦でうちに来ないかと誘いを受けたのだ。全中三位という実績と都内住みという事で真っ先にリストアップされたと聞かされた時は嬉しかった。そして今日は簡単なテストと面接だけは形式上するということで学校まで来ていた。
「校内広すぎて迷った……」
芦月学園は都内有数のお坊ちゃま校だというのは知っていた。だがここまで広いとは思っていなかった。受付で試験会場の場所を教えてもらったのだがトイレに行ってから今自分が何処にいるかわからなくなってしまったのだ。
「どうしよう。遅刻なんかしたら推薦取り消しになっちゃうかも」
しかも困ったことに受験シーズンだから校内に人が全くいない。道を訪ねたくても聞く人がいないのだ。まだ時間はあるはずだが心細くなってきて涙が出そうになってしまう。そんな時だった。
「あの〜、すみません」
「……、はいっ」
私に声をかけてきたのは知らない男子だった。芦月学園の制服ではないので私と同じ受験生だろうか。しめた。この人に道を尋ねれば試験会場に行けるかもしれない。希望の光が見えたと思った。しかし。
「俺、迷っちゃったみたいで試験会場何処か分かります?」
「え」
私は愕然とした。この人は私と同じ迷子だったのだ。それが分かった瞬間、絶望してしまい地べたに座り込む。
「え、え、どうしたんですか?」
「わ、私も場所わからなくて……」
私は地べたに座り込んだまま泣いてしまった。今、考えると情けない話だ。だがその事を当の本人は今現在、すっかり忘れているようなのでまあ良しとしよう。
「だ、大丈夫ですよ。受付までの道は分かるから一回戻って道を聞きましょう!!」
「え」
男の子は私を必死に励まして私の腕を引いて起き上がらせてくれた。私はその男の子の後ろについていく形になった。その時の彼の背中はとても頼もしく見えた。その後、受付まで無事に戻れた私達は再度道を聞いた。今度は迷わないように受付の人が簡単にメモまでしてくれた。
「いや〜、良かった良かった」
二人で試験会場に向かう道のり、男の子はホッとしたのかニコニコ笑っている。それはそうだ。彼自身も道に迷って試験会場に行けるか不安だったのだ。
「あ、ありがとうございます!!」
「え?俺も迷ってたから受付の人に頼り切りになったしお礼を言われるようなことは無いですよ」
そうかもしれないけど、泣いていた私の腕を引っ張ってくれたりこうして一緒に会場まで行ってくれたのだからお礼を言うべきだと思った。だが彼は俺はマジで迷っただけだからよしてくれよと笑っていた。私はその様子を見て凄いなと思ったのだ。
「当たり前だけど、君って俺と同じでここの推薦の試験に来たんだよね?」
「わ、私スポーツ推薦だから頭良くなくて」
「え、スポーツ推薦凄いなあ。俺なんて運動駄目でさ」
少し話していくうちに敬語が抜けてタメ口で話しながら試験会場まで歩いた。こうして私達は無事に試験会場まで辿り着いた。私達は席が離れているようなのでここでお別れになってしまう。
「じゃあ、お互いここ受かるように頑張ろうな」
「う、うん」
彼は私に握手を求めた。たった十数分の出来事ではあるが同じ学校の試験に望む戦友だと思ったのだろうか。私は彼の手を握ってお互いの健闘を祈った。彼はばいばいと手を振り自分の席に向かっていった。私は彼の手の感触を忘れないんだろうと感じた。
その後、テストと面接は特に大きな問題無く進み。晴れて数カ月後の四月から芦月学園に通える事となった。入学式の時、私はあの時の彼に会えないかなと密かに願ったりもした。そして初めて自分のクラスに入った時、私は目を疑った。あの時の彼がいたのだ。しかも、私の指定された席の隣だったのだ。これは何か運命的な何かを感じて私は嬉しくなって彼に話しかけに行った。
「あ、あの!!」
「え、あっ、はい」
彼は私の顔を見てもピンと来ないのか。何故自分が話しかけられたのか不思議そうな顔をしていた。そう、彼は私の事をすっかり忘れてしまっていたのだ。私にとっては記憶に残る出来事なのに彼にとってはそうでもなかったのかと少し残念に思ったものだ。
「俺になんか用ですか?」
「いや……」
何故かあの時の事を覚えていますかと尋ねるのは恥ずかしい気がした。それに私だけ覚えてこの人がすっかり忘れていたのが少し腹立たしかったのもある。
「あ、隣の席なんですね。よろしく」
彼は私が隣の席に鞄を置いているのに気が付いて隣の席だから挨拶をしてくれたと解釈をしてくれたと考えた事はすぐに分かった。
「俺、戸松峻って言います。よろしくね」
そうしてあの時のように彼は私に握手を求めた。
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