第13話 メガネ好きの人ごめんなさい
この後、溝口とは別れて家に帰った。別れ際の溝口は何かを考えて上の空だった気がした。なにかあったのだろうかと思ったが何故か踏み込んではいけない気がして黙っていた。
そして次の日、俺はいつも通りに登校する。俺の隣の席には相変わらず、朝練終わりで疲れ切っている溝口が机に突っ伏していた。
「溝口、おはよう」
「おはよ……」
溝口は登校してきた俺を俺の顔を見ずに突っ伏したまま挨拶をする。やはり練習がハードなのだろうか。溝口の様子を見ていると教室のドアの辺りがザワザワしだした。そこには俺の予想通りの人物、竹之内さんと太田さんが登校してきたようだ。二人は真っ直ぐ、俺達のほうへ歩いて来る。
「おはようございます」
「竹之内さん、と太田さんおはよう」
前に立つ竹之内さんはニッコリと挨拶をしてきた。その後ろで付いてきた太田さんの顔を見て俺は驚いた。
「あ、あれ、太田さんメガネは?」
太田さんはトレードマークのメガネをしていなかった。メガネを外したその姿はとても綺麗な顔立ちをしていた。勿論、メガネをしていた時から分かってはいたがより鮮明になったという感じだろうか。
「……、コンタクトにしたのですが変でしょうか?」
「い、いや、めちゃくちゃ似合ってると思う」
俺は心に思った事を正直に語る。俺好みの黒髪ロング美少女がそこにいたからだ。滅茶苦茶可愛いじゃないかと心がドキドキしているのを感じる。
「……、戸松君、私はどうですか?」
「た、竹之内さんも相変わず素晴らしいです」
竹之内さんは満面の笑みで圧を出してきた。笑顔なのに目が瞳孔が開いていて怖いですよ。一般人にそんな圧をぶつけたら死んでしまいます。
「ふふ、そこは可愛いと言ってくださらないんですか?」
「い、いや、無茶言わないでもらえると……」
竹之内さんを眼の前にして可愛いと褒めろだなんて恐れ多いのではないだろうか。俺は背中に汗ダラダラ垂れているのを感じる。
「戸松、私は?」
「なんで溝口まで褒めないといけないんだよ」
と思ったら、溝口までブーブー言ってきやがった。お前まで面倒な事を言うな。なんで朝から女子三人褒めないと許されない感じになってるんだ。
「ふん、もう学食一緒に行ってやんないから」
「溝口様、今日も一段と美しいお姿ですね」
おい、学食ぼっちになるから一緒についてきてくれよ。その為なら俺はプライドを捨てる。
「ああ、戸松君、昼休みいつも教室にいないと思ったら学食に行っていたのですか」
「そう。あれタダで食い放題だから助かるんだよね」
学食、明らかに高級食材をタダで食べられるからいつもつい食べすぎちゃうんだよな。
「学食の代金は授業料から出てるからタダじゃないし、それにビュッフェだから食い放題じゃないよ」
「え、ビュッフェって食い放題じゃないの?」
溝口の言葉に俺は戦慄する。食べ放題だと思ったので好き放題食べてたのに。後で確認したら食べ放題なのはバイキングで、ビュッフェというのはセルフで料理を取り分ける形式のことを言うらしい。諸説あるが。
「まあ、沢山あるし怒られる事はないだろうけど。戸松みたいにバクバク食ってる生徒いないでしょ」
「運動部もいるだろうにここで食べないで何処で食べるんだ……」
「そういう生徒はトレーナーが付いていて食事管理とかもしてるらしいよ。私はビュッフェじゃなくて注文して食べてるし」
まだプロでもない学生が個別トレーナーなんて贅沢すぎやしないか。ちなみに芦月学園の学食ではビュッフェか個別で注文かで選べるので学食なのにウェイターが何人もいる。まじでこの学校どうなってるんだ。
「私は我が家の料理長がお弁当を作っていただいているので、冷めないうちにそれを届けてもらっています」
「私は流石に弁当として持ってきてます」
すごいな、竹之内さん我が家に料理長がいて、しかも出来たて弁当を届けてもらってるのか。太田さんも弁当持ち込みとか言ってるけど家にシェフとかいるんだろうな。ていうか学食で食べられるのに何で他から取り寄せるんだよ!!
「お金持ち信じられんな……」
「本当に…」
いや、溝口。俺寄りみたいな意見出してるけど、お前の家も金持ちなの忘れてないからな。
「ですが、最近お弁当を断ることもありますよ?」
「え、そうなんですか?」
「はい。戸松君と出かける時はお腹を空かせていた方が良いかと思って食べていないんです」
竹之内さんはポッと顔を赤らめて照れている。その様子を見た途端、溝口と太田さんは俺を睨む。俺は悪くねえ!!ていうか竹之内さん、よく放課後とはいえ、細い体でハンバーガセット食べられるなと思ったが昼食べていなかったのか。
「はあ、戸松はんはようおモテになりますねえ」
「溝口、エセ京都弁はやめろ」
「戸松君……」
太田さんから竹之内さんに手を出すんじゃねえぞという目で睨まれている。承知しております……。




