14.
あれから二日後。
放課後、私は妖精学の講義が行われる教室にいた。
正面と右側の壁はすべて書棚になっており、そこにはたくさんの本が並んでいる。左側には、大きな棚や引き出しがあり、そこには装丁のための材料や素材が入っていた。
教壇には、たくさんの本が積み上げられ、魔道ランプと、ほのかに輝く何冊かの本が、室内をぼんやりと照らし出している。
目の前には装丁師でもあり妖精学の権威のキャメロン先生と、学院の“鍵”と呼ばれる生徒指導や警備を担当しているメーレ卿が立っていた。
今日は、このあと町へ外出する予定だ。
町には名前がなく、学院のお膝元、学院を中心に広がった町だから、外部の人は“プリエール”と呼んでいる。学院の生徒やそこに住む人間は、ただ“町”と呼んでいるけれど。
だから、プリエール学院都市に住んでいない人間が“プリエール”と言った場合は、学院のことではなく、学院都市全体を指していることになる。
「さて。試験の素材購入ために町への外出許可申請を出した君たち四人に、改めて注意事項を伝える」
メーレ卿は、ゆっくりと、確認するかのように四人それぞれの顔を順番に見据える。
深い緑の髪と瞳を持つメーレ卿は、長身で細身の、騎士らしくない人だった。右目の下の傷と胸当、腰から下げた剣がなければ、出入りの町人にしか見えない。身なりを整えたら、結構なイケメンになるんじゃないだろうか。無精髭とか、くくっただけの髪とか。
「君たちを乗せた馬車は、中央停車場へと到着する。学院と町を結ぶ定期馬車だ。学生以外の人間も乗っている。学院の生徒として、職人見習いとして自覚ある行動をとるように」
メーレ卿の横で、キャメロン先生がにこにこと笑ってる。
学院に入学して、町へ出たのはたった二回。そのどちらも、キャメロン先生の引率だった。
「君たちは初めて、君たちだけで町へと行くことになる。今後、こういうことも多くなるだろう。中央区以外には行かないように。必要な物は、中央市場とノア通りで揃うはずだ。町では必ず二人以上で行動すること。学院のローブを着ていれば基本安全だが、良からぬことを考える外部の者もいる。外部者との接触は極力避けるように」
「あの」
おずおずとウェインが手を上げる。
「町の人間と外部の人って、どうやって区別を付けるんですか」
「大丈夫ですよ」
ミントグリーンの目を細めて、キャメロン先生が優しく答える。
「貴方方の守護妖精がちゃんと教えてくれます。安心してください」
三つ編みされた白く長い髪。片眼鏡をかけたその姿は、まさに学者そのものだ。金糸の刺繍が施された若草色のローブを着た彼は、この国の装丁師の頂点におり、その豊富な知識故に、王家の相談役として賢者の称号を贈られていた。見た目は二十代後半ぐらいに見えるけど、きっと実年齢は違うんだろう。
「さて、私からは皆さんにお渡しするのは護符です。必ず身につけていてくださいね」
そうして先生は、カルム、ウェイン、私、トレイシーの順番でメダリオンのついたペンダントをかけてくれる。
トレイシー。そう、トレイシーがいるのだ。しかも、なんとなくだけれど、彼女、私におびえているような気がする。ちょっと私が動くだけで、びくっと体を震わせたり、目を合わせようとしなかったり、あからさますぎる。本当に私、彼女になにかやっただろうか。
「ほとんどの買い物は、クレイトン商会ですむと思いますよ。買い物の仕方は大丈夫ですね」
私達はそれぞれに頷く。
「念のためいっておきますけれど、試験に必要のないものがあった場合、後々代金を徴収の上、品物は没収ですからね」
ウェインがチラリとカルムの顔を見ると、カルムはそれを避けるように、明後日の方を向いた。
「では、気をつけていって来てくださいね」
キャメロン先生は、極上の笑みを浮かべてそう告げた。




