12.
服飾実習室で、私は試験の準備をしていた。
新緑の結晶、薔薇の朝露、湖水の粉。
レシピにある材料を確認しながら、配合を計算し、必要な数量を注文書に書き込んでいく。これを学院に提出すると、材料を揃えてくれるのだそうだ。
「ああああぁぁぁぁぁ~~~」
後ろから聞こえる呻き声を、完全に無視して。
「いいよなぁ~、クリスティンは。染色師は伝統ある職人だから、文献も製作方法も記録がたっぷり残っていて……」
黒い二角獣の角、は難しいから、虹色貝の粉末をつかうかな。
「しかも、試験内容がアレだもんなぁ。 俺、新種よ。大切にされても良くない?」
「ねぇ、クリス」
隣で、やはり私同様にレシピを見ながら材料を確認していたメグが、囁いた。
「あれ、どうにかならないかしら。鬱陶しくて仕方がないわ」
最高に嫌な顔をしてメグを見てしまった私を、許してほしい。
「どうして、私が」
「だって、双子妖精でしょ」
思わず言葉に詰まる。そうしてこっそりと背後を盗み見て、私は盛大にため息をついてしまった。
背後で机に突っ伏したまま、何をするわけでもなくただただぼやいているのは、アンドリュー・アスト・グランクト。グランクト辺境伯の嫡男で、紡績師見習いだ。守護妖精は星空の妖精。悲しいかな、私の守護妖精である夜空の妖精と双子妖精と呼ばれる存在なのだ。
私は振り返ると、
「失礼ですが、グランクト辺境伯令息。今は試験のための自習時間です。お静かにしていただけませんか」
そう言うと、彼は私の顔をしみじみと見てから、嫌味たらしく長いため息をついた。
「寂しいなぁ。俺たちの仲だろう。アンディって呼んでよー」
「それほど親しい間柄ではございません。お互い、誤解されるような言動は避けるべきかと」
「職人同士だし、誰も誤解しないって。それに、クリスティンとなら周りも納得するだろうし」
なにを、誰が納得するって言うのよ。それを突っ込んだらやぶ蛇になりそうで、ぐっとこらえる。
「ぐだぐだ言ってないで、手を動かしたらいかが? 紡績師は、貴方しかいないんだから、まず製作方法を見つけることからはじめないといけないんでしょ」
「クリスティン、優しい」
なんか腹立つなぁ。巻物を押さえていた文鎮を投げてやろうかしら。
「アンディ、あんまりふざけているとクリスに嫌われるわよ」
メグが冷ややかにそう告げると、彼は青みがかった銀色の髪をかき混ぜながら、起き上がった。高い身長に、日に焼けた肌。深い青い色の瞳は、澄んだ湖面のようにきらめいている。辺境で騎士として鍛えられた体はしっかりとしていて、とても同い年の男の子には思えなかった。
男の子って言うより、男の人って感じなんだよね。
「試験当日、風邪とか引かねーかな」
言ってることは小学生並みだけど。
「なに言ってるのよ、生まれてから熱ひとつ出したことないくせに」
「俺じゃなくて、オリバー先生」
私はメグと顔を見合わせると、どちらからともなくため息をついた。
「アンディをまともに相手にした私が馬鹿でしたわ」
「メグの親戚だって解ってるけれど、ないわー」
「ごめんなさいね。一昨年辺境で会ったときには、そこそこ素敵でしたのよ」
「それは、さすがにひどくないか、二人とも」
アンドリューのしゅんとした力のない抗議に、私達は声を出して笑った。




