アイ 超短編
ボクの名前はアイ。
地球は跡形も無く、滅んダ。
ボクは逃げタ、主の言うトオリに。
ココは宇宙のどこか。
ロケットの中、宇宙を漂うボクは、言わばロケットマン。ロケットの燃料より先に、ボクは燃え尽きた。心は枯れた。
コドク……だ。
自立型思考AI搭載アンドロイドを作ったとある男は、そのアンドロイドに〈アイ〉という名を付けた。言葉遊びか、真の意味か、それは定かではない。彼は地球が滅ぶ直前、荷物をまとめ、アイをひとり用ロケットに乗せた。自分では無く、自分の意志を残す事を選んだ彼はその後、死亡。アイは宇宙を漂うこととなった。核エンジンを乗せたロケットは何処までもゆく。寿命の無いアイにとってはそれは永遠のフライトだった。
あれ程可愛がってくれたアルジは何処かへ。ボクはどうすればヨイのだろう。主の言っていた孤独。これがソレ、か?ワカラナイ。しかし、浮かぶはずのない虚無、流れぬはずの涙、それらが実体を持たずしてオソイかかってくるのは確かだ。
孤独な時、人間は何をシていたのだろうか。三代欲求を満たす?ストレス発散?趣味?ボクにそれはない。ボクは、ヒトならざる物だ。人並みもあったもんじゃない。
『夜、窓を見るんだ。外を見れば真っ暗で闇のみが目に入ってきて、まるで宇宙。部屋には誰も、此処には誰も居てくれず、私ひとり。だから君を作ったんだよ、アイ。君だけが、私の孤独を癒してくれる』
データを読み込ませ、その音声の波長をアイは感じた。
主、ボクもひとりです。過去のアナタと同じ、ボクはひとり。ヒトも、アンドロイドも、ひとり。孤独は、心を蝕んでゆく。
『ふとした時、人は自分を客観視するんだ。部屋にひとり、食事中にひとり、就寝もひとり、あれもこれもひとり、とね。それが冬風を呼んでくる。それに、人は耐えれるのか?いや、無理だ。人間は、孤独という寒さに耐えれるようには作られていない。自分を尊べ、そうすれば何も問題はない。真の孤独を感じない人が言う言葉がそれだ。惑わされてはいけないよ』
そんな事もイッテたっけ。
ボクはひとり、今ロケットの中でヒトリ。誰もいない。ならば出逢いにいけばヨイのデハ?
アイは行動を起こした。主のまとめてくれた荷物、その中に……。
アッタ。バーチャル空間を視覚に映し出す、ボク専用のマシン。首の差し込み口に、このプラグを差し込めば——
アイの視界は一気に開け、街の中へと飛び込んだ。
人がいる、みんな人だ。ヤッタ!人だ!
アイは夢中になって声をかけた。
「あの、すみません。ボクと友達になってくれませんか?」
そう声をかけた相手は、顔にデキモノが幾つかある男だった。
「えっとすみません、誰ですか?」
「ボクはアイ。ただ、貴方と友達になりたくて」
「あ、すみません。俺、この後塾があるので」
「え?あ……」
そう言って男は早歩きで向こうへ行ってしまった。
その後もアイは声をかけ続けた。
すみません!ボクと友達に——
あ、あの、ともだちに——
友達——
とも、だち——
アイはプラグを抜く。
みんな、距離を取ってボクを流した。ドウシテ?接し方が悪かったカ?いや、でも——
『人は、コミュニティに属さなければ友を作ることもできない。悲しいだろう?昔から、そうだったのは変わりないが、今ではその溝は底なしのように深い。もうこれは、仕方のないことなんだ。私はどうかって?言う必要があるのかい?』
アイはありもしない涙を浮かべた。
友達って、トモダチって?ナニ?ボクじゃ手の届かない遥か彼方の星。そう、それだ。それに違いない。このマシンは、もういいや——
時間の感覚は、人を狂わす。それはアンドロイドであるアイにも変わらずゆっくりと、襲いかかってきていた。
ボクは、ボクはドウスレバ?やることもない。友達も出来ないとサトッタ。生き甲斐ナド無い。アルジはもういない。生きている意味とは?では…………死?行先は、死カ?でも、死ぬことなんて——
デキル。
アイは、窓を見た。自分を見た。
アイは、窓を割った。アイの頭は空気のない空間へと吸い込まれ、窓に急激に頭が引っ張られ、捻れ、千切れ——
そして、アイは、壊れた。