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聖傑  作者: 如月誠
プロローグ
1/34

プロローグ:前編

 新天地でいきなりトラブルに巻き込まれる。

 それは往々にしてよくあるのかもしれない。


 ――だとしても、これは異常だろう。


 響里義矩(きょうりよしつね)にとって、それがこの地での最悪の始まりだった。




「やっと着いたぁ……」


 御伽(おとぎ)駅。

 終点に近く、他に下車する乗客もいない廃れた駅に響里は降り立った。

 乾いた風が木の葉と共に舞う。乱れた少し長めな黒髪と、紺色のジャケットを直しながら響里は辺りを見回した。

 生い茂った木の葉が駅に屋根に覆いかぶさり、四人掛けの椅子は経年劣化が著しい。普段は、よほど利用者が少ないのだろう。最低限の整備にとどまっている。


 ――文字通りの辺鄙な田舎町。


 駅を出た響里が真っ先に抱いた感想がそれだった。

 都心部から随分離れた。本州でも端に位置する御伽町。何時間も電車に揺られて、身体は悲鳴を上げていた。

 旅行カバンを地面に置き、背筋を伸ばす。凝り固まった背中から凄い音が鳴った。一つ深呼吸をすると、長時間移動の疲れを吹き飛ばすような澄んだ空気が体内に流れ込んでくる。

 それだけで、閉塞感の強かった都会のストレスが浄化されるようだった。

 この春から高校二年生となる響里は、たった一人でこの町にやってきた。春休み中の旅行などではなく、この町に住むために。引っ越してきたのだ。

 環境を変えるというのは、大抵憂鬱になるもの。特に十代の多感な時期は心身ともに負担になるのだが、響里にはそれが渡りに船、だった。



 辛い現実からの逃避。



 そういった意味では幸運だったのだ。

 都会で暮らしていた響里は、中学時代まで何事もなく平穏な毎日だった。しかし、その先で周囲とのギャップについていけなくなってしまった。

 高校生活。一年目にして、心は限界に達してしまう。


 馴染めなかった。

 溶け込めなかった。


 都会の人種は十代だろうが進化が早い。数多ある日常の情報量を一気に吸い込んでいく彼等に響里は付いていけず、次第に孤独になっていった。

 子どもと大人のちょうど中間。流行、将来への準備、恋愛。あらゆる方面に彼等は特化していく。眩しい光を周囲は放ち、日々の話題は異星人の言語と思えるほど理解不能になった。

 やがて、登校も苦痛になってきた春休みの直前。両親が仕事の都合で日本を離れることになった。多忙な両親だが海外は初らしく、響里自身は学校生活もあるため日本に残る方が最善と家族会議で決定。響里は転校することになった。

 その響里を快く引き受けてくれたのが母方の祖母だった。響里には小さな頃の記憶しかないため、顔はおぼろげ。祖母のいる、この地方もあまり覚えていなかった。


「転校、か……。しんどいな……」


 大きなため息をつく。土地柄がどうであれ、同世代の人間たちとまた生活していくのだ。新たな学校生活に期待もあれば、やはり不安は消えることはない。


(いや、ネガティブに考えちゃいけないな。まだ始まってもないんだから)


 と、気持ちを切り替えつつ、響里はこれからのことを考える。

 物心をついて以来、この場所には一度も訪れたことがない。当然、祖母の家がどの辺なのか覚えているはずもなく。なので、迎えを寄越してもらうことになっていた。


 有沢美雪。


 生まれも育ちもこの御伽町で、響里とは従姉にあたる。今は高校教師をしているらしく、響里も彼女の勤める高校に編入する手筈になっている。

 十歳離れた年上の彼女の顔も覚えてはいないが、これだけ人気が無いのだ、互いに間違える心配もないだろう。

 スマホを取り出し、時刻を見る。

 現在、十一時三十分。待ち合わせは十一時のはずだが、見通しのいい駅前には、人影すら見えない。


(んん……? おかしいな……)


 子どもの頃、遊んでもらった記憶はかすかに残っている。割と大雑把な性格だったような気がするが、大人になっても時間にはいい加減なのだろうか。

 首を捻りつつ、響里はもう少しだけ待ってみることにした。









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