第四話 初めての冒険
「受付嬢勇者、か——」
あたしは目の前に広がる現実に、半ば絶望しながらも、目を丸くしていた。
「受付嬢勇者って、なんだそれ」
脳裏におとんの言葉が蘇る。
あれは、明らかにあたしを軽蔑していたように、あたしには見えたのだ、けれど。
あれは、心配、だったのかな、あたしのことが。
今、目の前にはスライムの大群がいて、あたしの前の通路を封鎖していた。ジーンは何でもないようにその群れを見つめていたが、あたしにとっては人生史上でいちばんのスライムの大群だ。
ジーンのあの寂しそうな眼差しが脳裏に焦げ目のように残った。もう焼きつき切ったのだろう。今度は大気圏に衝突する瞬間のスペースデブリのように燃え始めている。
もしこの瞬間、洞窟の入り口が、工事で閉鎖されてしまったら、とあたしは考える。きっと、舗装されていない道にくっついて、なんとか踏ん張って生きてきたのに、自宅に戻って靴を磨いた時、落とされてしまったガムの包み紙のような無念さだろうな。
ジーンもさすがにやばいと思ったのか、アーサー王の剣並みになんだか強そうな百均の包丁を取り出した。光を受けていないのに、ギラギラと照らしつけるそれには、不思議な魔力を感じた。たかが百均の包丁なのに?
「ヴォレイシア、危ないっ!」
勇者は、一斬りで、スライムの群れを倒す。
すぱっ——ようやく音が追いついた時には、
「クワァ!」
金切り声を上げながら、スライムは崩れ落ちていた。
あたりには静寂が漂う。
ジーンは百均の包丁を懐におさめた。
あたしはまだ、あんなにはなることができない。
拳を強く固めた。
【創作こぼれ話】
コメディーって一番人を感動させられると思う。それ以外を笑いに全振りしてる分、真面目なシーンが際立ち、人を泣かせさせるから。(筆者が憑依しているヴォレイシア・談)