第三話 中年勇者ジーン
こんな過疎地のギルドのテレビにおいて、チャンネルはローカル放送局の1チャンネルしかない。
よくもまあ飽きずにあんなものを見ているなあ、とあたしが呆れるほどの剣幕でジーンはそれを見ていた。
確かに中年のジーンのように恰幅の良い、髭の生やした男は興味を持ちそうな内容だったが、もしそれだけだとしたら対象になる人が少なすぎやしないだろうか。
異世界に差別っていう言葉はあるのやなあ、と頬杖をつきながらあたしは窓を見つめた。
今日の空は雲ひとつなく、青く澄み渡っていた。
こんな日こそ、冒険日和っていうんじゃないのかなあ……
おとんは、曇天の日に、嵐が吹く海へ、航海へ乗り出すことを冒険だと思っているのだが、あたしは、こんな呑気な冒険もたまにはいいのではないかな、と考えている。
でも、そんなことを打ち明けたらおとんに何発もゲンコツで頭をやられそうだから、黙っている。
「そんな甘いピクニックみたいな冒険があるか!」って叱られちゃいそうだからね。
海は相変わらず凪いでいて、赤く色づいた山が優雅にそびえたっていた。こんな綺麗な景色をなぜ、人々は観に来ないのだろうか、とあたしは考えた。
お日様がだんだん景色の中央に入って、えばりはじめたので、あたしは窓から目を離し、シャワーにかかった。
シャワーから出るとジーンは消えていた。ジーンもあたしと同じような考えの勇者だから、冒険にでもいったのかなあと思った。
そして、ジーンが最近よく行く洞窟へと歩き始めた。ギルドを『close』に変えて、あたしも冒険に乗り出す。
あたしの報酬は、元受付嬢のディーンから支払われていた。いよいよ他の勇者と同じ待遇にまでなった。
おとんがそれを聞いたら、きっと顔を赤くして怒り出すだろう。あたしの顔にまた平手打ちの跡が増える。
もう十分、肌色の顔が青いアザに染まりきっているのにね、とあたしは悪態をついたのだった。