出会い〜笑顔
俺《中島 直樹》は家の近くの海辺で沈みゆく夕日を1人で眺めていた
「綺麗だな」
ザァ〜
ただ波の音だけが虚しく響いている。季節は冬。周りには誰もいない。それでも俺は語り掛ける。一生声が届かない人にむかって。
「この場所お前大好きだったよな」
あいつが一番好きだった場所。初めて1つになった場所。2人の思い出の地。
ここは何も変わっていないいつもと同じ様に海がありいつもと同じ様に夕日が沈んでいく。ただあいつがいないだけ、ただそれだけ。それだけでこんなにも色褪せて見えるのか。海も夕日もそして世界も。あんなに心踊らせていた日々も今では嘘のように静まり返っている。
あいつがいない世界なんてなんの意味もない。
それでも地球は同じ様に周り、朝がきて夜を迎える。どんなに拒んでも時間は止まらない。
「死のうか」
時は止めるには自分を終わらせるしかない。そお思いここに来た。死ぬことが正しいなんて思っていない。あいつがそんなの望んでない事もわかっている。それでもあいつに会いたかった
俺は砂浜に寝転んで封筒から一通の手紙を取り出した。この手紙はあいつが最後に俺に残してくれたもの。ずっと怖くて読めなかったが意を決して読む事にした。あいつが最後に俺に何を伝えたかったのか。それを確かめなければならなかった。
俺は震える手で手紙を開け読み始めた。
「直樹へ
この手紙を読んでるということは私はもうこの世にはいないと思います。
でもね私はいつでも貴方の心の中にいます。ってなんだか暗い話しになっちゃうね。この手紙を読んで直樹が暗くなるのは嫌だから直樹との楽しい思い出を書きま〜す」
「ったくあいつらしいな」
俺は微笑みながら続きを読んだ。
「直樹との出会いはあんまり良いとは云えなかったよね。あの頃の直樹はとっても派手で正直初めて会ったときはこの人と関わりたく無いと思っちゃった(笑)
私もあの頃は暗くて全然愛想なかったよね(汗)
あの頃の私はまさかこんなに直樹の事好きになるなんて夢にも思わなかったよ」
(そういえばお互いあの頃はギザギザしてなぁ〜)
あの頃の俺はかなり捻くれていた。全てに対してまがった考え方しか出来なかった。
あいつもあいつで人生に絶望した感じだった。でもそれはしかたのない事だったあいつはあまりにたくさんの者を背負っていた。
ただあの頃の俺はそんな事知る由も無かった。
「直樹〜」
馬鹿でかい声で俺の名が呼ばれている。
「なんだよ。無駄にでかい声だすな」
俺はイライラしていた。
「なんでそんなイライラしてんだよ。今日は入学式だぜ。もっとテンション上げようぜ」
今日は高校の入学式だ。皆新しい出会いに心踊らせている。こいつ《桜井 優也》もその1人だ。顔を黒く焼き髪を茶髪に染め明らかにチャラ男だ。顔が整ってるためモテルことはモテルのだが女癖が悪いためすぐに別れまた新しい出会いを求める。優也に何人もの女が泣かされてきた事か。
「ったくダルいんだよ。高校なんて」
俺は冷めていた。元々高校に入るつもりなんて無かった。だが親が高校だけはいっとけとうるさく仕方なく入った。
来たくもない所にきて楽しめるはずもなく無駄に騒いでいる奴らにイライラしていた。
きゃっきゃと派手な女達がこっちをみて騒いでいる。俺がそいつらの方を睨み付けると女達は黙り込んだ。その後ひそひそなにか言っていたが無視をした。
その他の奴らは俺達を避けるように目を合わせようともしない。
2人はかなり目立っていた直樹は髪を白っぽい灰色に染め耳はいくつものシルバーピアスで埋めつくされていた。背も高く顔は優也以上に整っておりなにもしていなくても目立つ。
そんな2人が一緒にいれば騒がれる事も避けられることも仕方がなかった。
優也はさっき俺達を見て騒いでいた女達に声を掛けにいった。タイプの奴がいたみたいだ。俺はやっと静かになったと安堵していると「直樹〜。ちょっとこっちこいよ!」
優也が俺に手招きしている俺はきずかない振りをして無視していたがあんまりしつこく呼ぶもんだから俺は観念して優也の方に向かった。
「なんの様だよ」
俺は優也を睨み付けながら言った。
「大事な話があんだよ!」
俺の気持ちとは裏腹にはしゃいでいる。
その態度に余計イライラした。
「おまえの話なんかどうでもいいんだよ」
「マジ冷てえな。まぁ聞いてくれ。俺に彼女が出来ました!」
そお言うと優也は今さっきできた彼女を俺に紹介してきた。もう捕まえたみたいだ。そいつはどこにでもいるようなギャルだった。こんなんのどこがいいのか。そんな女を誇らしげに紹介しているこいつにイラッとしたがそんな事はどうでもいい。それよりもそんなぐだらないことで呼び出された事に腹が立った。
「そんな事ぐらいで呼んでんじゃねえよ。そんなんいつもの事だろうが」
俺の発言を聞いて優也の彼女になったばかりの女が優也を睨んでいる。
「お、おい。そんな言い方じゃ誤解されんだろ」
優也はかなり慌てている。誤解も何も本当の事だろうと思ったがこれ以上優也と絡むのは面倒なので元の場所に戻ろうとしたが優也に引き止められた。
「そ、そうだ。もう一個大事な話があるんだ。あの子が直樹に惚れたんだって」
そう言って優也は一人の女を指差した。
そいつはこの中ではリーダー格みたいで一番派手だった。顔はかわいい方なのだろうが全く好みでは無かった。それに今俺は機嫌が悪い。そんな気にはなれなかった。
「わりいけど今そんな気分じゃないから。つうか好みじゃねえし。」
俺は冷たく言い放ってその場を去った。
後ろから女の泣き声が聞こえたが何とも思わなかった
人気がないところを見つけタバコを手に取りライターで火をつけた。
ふぅ〜と一息つくとイライラも少し収まった。体育館ざわついてきた。入学式が始まったのだろう。今さら戻る気にもなれず終わるまで待っていようと適当に座れそうな場所を探していると3人ぐらいが座れそうな木の椅子があった。しかしそこには先着がいた。遠くにいたから詳しい事はわからなかったが多分女だろう。ちょっと脅かしてどかせようと思い女の方に向かった。
女の所に近付くと顔も詳しく見えるようになってきた。そして俺はハットした。かなりの美人だった。横顔しか見えないが透き通った黒髪に懍とした目、綺麗に筋が通った鼻。何より普通の女とは違うオーラを感じた。
脅かすのを止め声をかける事にした。自慢じゃないが今まで狙った女は確実に自分の女にしてきた。こいつも落としてやろうとそんな軽い気持ちで声をかけた。「なにやってんの?」
女はこんな場所に人がいると思っていなかったのか驚いて俺の方に振り返った。俺と目が合い初めて正面から顔を見た。俺は言葉を失った。左頬に大きな火傷の跡があったのだ。昔にできたものなのか黒ずんでいる。
俺が驚きを隠せずにいるとそういう反応のされかたに慣れているのか女は無表情のまま顔の向きを元に戻した。
俺はその時ひどく罪悪感を感じた。
いつもならこんな事なんかに罪悪感を感じることなんてない。しかし俺に対しての女の対応の仕方が俺をそう感じさせた。女は自分の顔を見られ驚かれる事を当たり前のような態度をとった。それがなぜだか寂しいと思った。
俺は思わず謝っていた。
「すまん」
「なにが?」
女は俺の方を見ず前を向いたまま答えた。
「いや、別に何もない」
驚いてすまんなんていえるはずもなく俺は言葉を濁した。
「さっきの事だったら気にしないで。あんなの慣れてるから」
それを聞いて俺はなんて返したらいいかわからなくなった。そして女に謝った自分を恥じた。俺は彼女の為ではなく自分の為に謝ったのだ。普通の奴らと一緒にしてほしく無いという自分勝手な気持ちが女にあんな寂しい事を言わせた。
「そんなの慣れているから」心なしかそれを言った時女が苦しそうな顔をした気がした。
俺が黙り込んでいると女が立ち上がり黙ってどこかに去っていった。
引き止めようとしたが引き止めたところでどうにもならない事はわかっていた。だから俺はやりきれない気持ちを振り払い女の後ろ姿を目に焼き付けていた。