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第3話

 数日後、企業が集まって開催されるベッドの展示会が開かれることになった。自分たちの会社も参加して展示する事になった。

 俺はまだ早いのではないかと思ったのだが、社長が何もかも決めてしまったので、みんな『はい! やります!』と元気に答えるのみであった。

 準備はすでに済ませてあるので今日やる事は特に無い。

 俺が視察気分で現場にやってくるとそこに妹もやってきた。


「お兄ちゃん、来たよー!」

「おお、お前も来たのか。今日はおとなしくしておくんだぞ」

「任せてよ! 私はお兄ちゃんの妹だよ!」


 妹は胸を張って自信満々だった。その様子が可愛くて思わず笑ってしまう。


「おいおい、張り切りすぎて失敗しないように気をつけろよ?」

「大丈夫だって! それより早く会場に行こう! 私が張り切って新型ベッドのレビューをしてあげるからね」

「はいはい、わかったから引っ張らないでくれ」


 俺は妹に手を引かれながら会場へと向かっていった。


「ここが会場か……思ったより人が多いんだね」

「そうだな。でも、これでも少ない方だと思うぞ」

「そうなの?」

「うん、普通はもっと混んでるから」

「マジか……ただのベッドの展示会だと思って侮っていた」


 妹はびっくりしているようだが一流企業の集まる祭典なのだ。これぐらいの規模にはなるだろう。

 俺は妹を連れて中に入った。すると、そこには様々なベッドが並んでいた。


「お兄ちゃん、ここはベッドと言っても色々種類があるんだね」

「ああ、そうだな。まずはいろいろ見てまわるか」

「うん、そうだね」


 俺はベッドコーナーの案内板を確認してから歩き出した。ここは広いから企業の関係者の俺でも迷いそうになる。妹の前でかっこ悪いところは見せられない。


「えっと、まずはこっちか……」

「うわっ、こんなにも種類があるんだね。まるで宝石箱だ」

「ははっ、確かにそんな感じだな」


 妹は目を輝かせてベッドを眺めていた。そして、あるベッドの前で立ち止まる。


「うわぁ、すごい! お兄ちゃん、このベッドは一体なんだろう!?」

「これはウォーターベッドだな。水で膨らませるタイプのベッドだ」

「えっ、これって水で膨らんでるの!?」

「ああ、原理的には空気ベッドと同じらしい」

「へぇー、面白いね! ちょっと触ってみてもいいかな?」

「構わないよ。ただし、壊さないように優しく扱うこと」

「はーい! じゃあ早速……」


 妹はベッドの上に飛び乗って横になった。だが、そこで問題が発生した。


「うぅっ、沈む……」

「ほら、言わんこっちゃない。だから優しく扱えって言っただろ?」

「ごめんなさい……」

「まぁいいさ。次は気をつけるんだよ」

「うん、ありがとう」


 俺は妹を掴んで引っ張り出してやった。彼女は嬉しそうに微笑んでいる。


「ふふっ、やっぱりベッドっていいよね。沈んだけど居心地は良かった。何て言うか深い」

「そうだな。ところで、このベッドは買いたくなったか?」

「うん、欲しいかも。結構高そうだけど……」

「値段は30万ゴールドだな」

「た、高い……」


 妹の顔が引きつっている。やっぱり高いよな。ミリアだったらコレクション感覚で買えるかもしれないが。


「乱暴に扱ってごめんね。良い人に買われるんだよ」


 それから俺達は二人でベッドを見て回った。どれも高級品ばかりなので手が出ないものばかりだった。だが、買わなければ無料なので妹はたっぷりと寝心地を堪能していた。


「お前って度胸があるよな」

「だってせっかくの展示会なんだから使ってみないとね」

「そりゃそうか」

「はぁー、ここは凄いね。ベッドだけでこんなに種類があるなんて思わなかった」

「そうだな。俺も初めて見た時は驚いたよ」

「ねぇ、また来たいね」

「機会があれば連れてきてやるよ」

「約束だよ!」

「ああ、わかったよ。じゃあ、そろそろ俺達の会社のベッドを見に行くか」

「待ってました!」


 俺達は再び展示スペースを歩いていった。すると、そこに見慣れた後姿があった。


「あっ、社長じゃないですか」

「ん? おお、アルヴィン君じゃないか!」


 社長はいつもの調子で話しかけてきた。相変わらず元気な人だ。美少女の明るい笑顔にドキドキしてしまうが彼女は上司で社長だ。俺も社会人として真面目に応対しなければ。


「今日は仕事で?」

「ああ、そうだよ。ライバル社の商品も気になってね」

「そうだったんですか。社長も仕事熱心なんですね。休日なのに」

「いやいや、大したものではないさ。こんなのはただの興味本位だ。それよりも、そちらのお嬢さんは誰だい?」


 社長は妹に興味津々な様子だ。そう言えば妹を紹介していなかったな。


「ああ、すみません。紹介が遅れました。うちの妹です」

「はじめまして、私は妹のアリシアと言います。兄がお世話になってます」

「ほう、評論家のアリシアとは君の妹だったのか。これは奇遇だな」

「本当ですね。まさかあなたの会社が兄と関わっていたとは思いませんでした」


 二人は親しげに話している。どうやら知り合いのようだ。


「あの、二人ともお知りあいだったのですか?」

「ああ、前に一度話したことがあるんだ」

「そうなんですよ。それでいろいろあって……その節はどうも」

「いやいや、お礼を言うべきなのは私の方だよ。君の兄は優秀な社員だからね」

「いえ、兄はまだまだですよ。これからもっと頑張らないといけませんから」

「いやいや、そんなことはないぞ。彼はもう十分に頑張っていると思うよ」

「ありがとうございます。でも、私も兄も負けていられませんから」

「はっはっは、それは素晴らしいことだ。私も見習わないとな」

「そうだよ、お兄ちゃん。もっと頑張らないと」

「はい、わかりました」


 俺は二人の会話を聞いていて感心してしまった。なんていうか大人の会話だ。

 俺は妹が普段何をやっているかよく知らないが、なんだかいろいろやっているようだ。


「では、私は失礼するよ。兄妹の時間を邪魔して悪かったね」

「いえ、こちらこそお忙しいところお時間をいただき感謝します」

「それでは失礼」

「はい、またお会いしましょう」


 こうして、俺達は社長を見送った。

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