ちゃんと立てよ!
高校の頃に付き合っていたオトコが商売やってて、その仕事を手伝わされたのが始まりだった。
今から考えるとその仕事はヤバくて……俗にいう『マルチ商法』ってヤツだった。
どうにか高校は卒業したけど……最低の素行だった私に、ロクな就職口が回ってくるはずも無く、オトコの仕事と掛け持ちでフツーのバイトもこなしていた。
ところが商売の方が行き詰ってしまい……私をフーゾクに落とそうと画策し始めたオトコの魂胆から辛くも逃げ切って……多国籍、共同トイレの(煮炊きは電気かカセットコンロの)ボロアパートでようやく履歴書に書ける住所をゲットした。
「これでダメだったら自分の糊口をしのぐ為にフーゾクやってやる!!」との背水の陣で、とある訪問販売の仕事にありついた。
そこから様々な販売の仕事に就いた。
春を売るまではしなかったが、枕営業の経験もなくはない。
曲がりなりにもマンションに住めるようになった私が……今、立っているのはシャッター商店街の中の“元”荒物屋。
時流に乗れず、しかも放漫経営で……昨日、“飛んでしまった”……
取引のあった問屋の連中が気色ばんで
「開けろ!!」と怒鳴りながら下ろされたシャッターを蹴飛ばしている。
その中で一番若くて一番青ざめている“ボク”の裾を私は引っぱり、向こうで取り壊しの真っ最中の花屋の敷地に転がっているバールを指差した。
「あれ!使えない?」
“ボク”はすっ飛んで行ってバールを拾って来るとシャッターの隙間に突っ込んだ。
「いいぞ!!」「こじ開けろ!!」と無責任な男達の声!!
シャッターがこじ開けられ、ワラワラと男達が雪崩れ込む合間を縫って、私は自分が納めた雑貨類と“バカ旦那”が自分の趣味だけで仕入れた一番金になりそうな高級万年筆のセットをまんまと持ち出して車に詰め込み、さっさと撤収した。
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翌日、私のスマホに課長から電話があった。
「たった今、警察から電話があった。“萬田屋”の件で! お前、大丈夫だろうな!!」
「売り掛けも何もクリーンそのもの!何の問題もありません!」
「まあ、どうでもいいけどな! オレは知らねえ話だし! とにかく“担当者”から事情を聴きたいんだと! “善意の第三者”としては協力しなきゃなんねえから、行って来い! いざとなれば女の武器!!泣いて切り抜けるんだな!」
「バカバカしい!泣きゃしませんよ!」
私は軽くため息をついてスマホをホルダーに戻し、課長が言ってた警察署の名前をナビに打ち込んだ。
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どうやら事情聴取は私が最後だったらしい。来た時にはヒソヒソ話をしている問屋連中とすれ違ったが聴取が終わって出て来ると誰も残っていなかった。
ああ、半日潰してしまった!!
「……今日回れなかったところは明日直行して回ります。これから勤怠システムと車両申請を入力します」と課長に報告し電話を切ると、向こうの部屋のドアが開いて人の気配がした。
見ると“ボク”が膝に付かんばかりに何度も頭を下げている。
「嫌な物を見てしまった。とにかく長居は無用!」と駐車場に戻ったら前にパトカーが停まっていてクルマが出せない!!
そうこうしている内に“ボク”が出て来て……柱の陰にしゃがみ込んで膝に顔を埋めた。
「マジかよ!!」
思わず口走った時に
「すみませ~ん! 今、動かします!」制服の警官が駆け寄ってきたので、私はとにかく“ボク”の腕を取ってクルマに押し込んだ。
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コンビニに車を止めて、コーヒーを二つ買った。
「好み分かんないから砂糖もミルクも入れちゃったよ」と“ボク”に渡す。
いつもは“ブラック派”の私も公平を期する為に砂糖ミルクをぶち込んだ。
その甘さに少々辟易としながら“ボク”を見ると、私にまで頭を下げながら手の甲で涙や鼻水を拭ってる。
情けない!!
付きそうになる「ため息」を飲み込んで、私は話し掛ける。
「私の事、言わなかったみたいだね。」
「女の子を巻き込むわけにはいきませんから」との生意気な口に私は吹き出した。
「女の子?!!プッ! クククク!アハハハハ!!」
“ボク”が苦い顔で俯きながら甘いコーヒーに口を付けているのが、なお可笑しくて一頻り笑ってから、ようやく謝った。
「ゴメンね~!せっかく庇ってくれたのに……ありがとね」
「いいえ」と“ボク”は俯いたまま
まったく近頃の若いもんはどうなっているのか?
それともコイツが適職でないだけか……
しかしまあ、受けた恩義を返さないのは私の矜持に反するから
飲みに連れて行くか……でもクルマだしなあ……
こんな事をぼんやり考えていると……
「こんな子って!どう変化するのだろう??」
不意に私の中の“不埒”が目を覚ました。
“バカな私”は後先を考えない。
で、クルマを発進させて国道を流し、目的の建物を見つけるとウィンカーを出して“ビラビラ”をくぐった。
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抱いてみると“ボク”はなかなかにカワイイコで……私は結構満足した。
“ボク”……智也くんはどうなのかな?
まあ、ちゃんとやる事はやったし!私みたいな据え膳でも召し上がりはするわけね。
「ねえ!智也くん! 少しは元気出た?」って訊くと
カレ、子猫の様に私の胸に顔を埋めて
「佳奈さんの事!好きになってしまいました」
なんて!
その場限りの事を言うから!!
私は少し鼻がツン!として
「だったら!!しゃがんでないで!ちゃんと立てよ!」
とカレのお尻をペシャリ!と叩いた。
おしまい
少しはいい話を書こうと思ったのですがダメでした。
でも、この主人公!
少しはいいところもあったりします!!(^_-)-☆
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