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(そこまでして守る価値があるのかしら……)


その行動からもわかる通り、ライボルトは自分の地位を守りつつ、あわよくばシエナを手に入れたいという強欲な気持ちが透けて見える。

シエナはライボルトを利用しているだけだろうに。

自分の欲しいものを手に入れるためには周囲がどうなろうと構わないのだろう。


シエナは手のひらから小さな光の玉を浮かべているが、先程マティルダを屋敷の外に誘い出すために魔力を使い果たしたのか、光が消えたりついたりを繰り返している。

攻略対象者を落とすことばかりに夢中で、魔法の力を高めることを怠ったが故に、今は光の玉を浮かべる程度の初期の魔法しか使えない。


どの魔法でも同じだが、安定して力を高めていくには毎日地道な努力が必要だ。


マティルダは余裕のある表情で二人を見ていた。

しかしシエナもライボルトもこちらを見て攻撃を放てないでいる。


トニトルスがイグニスを四六時中見張っているからか、空になるまでトニトルスにあげていた魔力を放出していない。

有り余ったマティルダの体の中からは大量の魔力が漏れ出している。


広範囲にバチバチと弾ける音と共に、金色の光が花火のように発光しては消えていく。

ライボルトかシエナの二人がマティルダに攻撃を放てば、返り討ちにする準備はできている。

その魔力の強大さは二人も肌で感じているだろう。

マティルダはその場に似つかわしくない優しい笑みを浮かべた。



「あら、どうしたのかしら……」


「……っ!」


「ッ!?」


「いつでもどうぞ?」



マティルダがそう言うと、二人は激昂したように攻撃を放とうとする。

マティルダも魔法を放とうと片手を上げた時だった。


そんな時、暗い森から見覚えのある人物が出てくる。



「──おいっ!二人とも何している!?」


「ローリー殿下……?」


「マティルダは無傷で連れ帰るべきだと言っただろう!?」


「だってぇ……」



マティルダは解放しようとした力を押さえ込んだ。


(ローリー殿下が何故こんなところに……。ブルカリック王国の海が荒れたのは魔族ではなく、まさか本当にローリー殿下が?)


この時、ベンジャミンが言っていたある言葉が頭に浮かんだ。

彼がなぜ色んな国を救っていたのか、マティルダは理由を聞いたことがあった。

大きな力で自然災害などが起こる場所にベンジャミンが向かうのは彼の育ての親である『師匠』を探すためだったらしい。

結果的に各国から英雄のように持て囃されていたベンジャミンだったが、師匠を探す意味合いがあると言っていた。

溜まる一方の魔力も放出できて一石二鳥だと語っていた。


そして今回の誰かの魔法によって引き起こされた魔法は魔族でもなくベンジャミンの師匠でもなくローリーだったようだ。

その証拠にローリーが着ている同じ黒いローブからは水が滴っている。


(まさかローリー殿下が……守るべき国を魔法を使って危機に陥れるなんて)


マティルダは震える声でローリーに問いかけた。



「まさかとは思いますが、ローリー殿下が大波を起こしたのですか?」


「ベンジャミンがここにいたら、お前を連れ戻せないからな」



マティルダの問いかけを否定もしないことに驚いていた。

シエナが「ベンジャミン様は今、どこに?」と問いかけると、ローリーは「波を抑えている」と当然のように言った。

それと同時にライボルトが「作戦が上手くいったな」と喜んでいる。


この会話からシエナ、ライボルト、ローリーがこの出来事を引き起こしたのだとわかる。

大きな怒りが湧き上がってくる。

何より国やベンジャミンを利用したことが許せなかった。



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