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「どうして!?あなたは学園でもマティルダとしての生活を楽しんでいたでしょう?なのになんで嫌がるのかしら……。学園の奴らも私じゃなくてあなたを選ぶなんて見る目なさすぎて、もういらないもの」
「…………」
「私は特別なんだから……っ!きっとベンジャミン様に守ってもらえたら処刑だってなくなるわ!あんな奴等の飼い犬になるなんて嫌ッ!絶対に耐えられないわ。私にはもうベンジャミン様しかいないのよ……!」
これ以上、シエナに何を言っても無駄だと思ったマティルダは溜息を吐いて口を閉じた。
何よりベンジャミンの意志を無視して、勝手に自分が選ばれると思っているシエナに対して腹が立って仕方なかった。
そんな時、我慢できなかったのかライボルトが前に出る。
「お前を連れて行けば俺は公爵家に戻れる……!戻れるんだっ」
「……ライボルトお兄様」
「父上に俺は悪くないと説明しろ!お前から言えばそれで済む話なんだっ!今すぐブルカリック王国に帰るぞ……!」
荒く息を吐き出しながらマティルダに命令するライボルトを冷めた目で見ていた。
あれだけマティルダを追い出そうとしていたライボルトもシエナと同じように自分の身を案じているだけでマティルダのことなど、どうでもいいのだろう。
「わたくしはここにいます。ブルカリック王国に帰るつもりはありません」
「お前はシエナのように俺のために動こうとは思わないのか!?」
「思いません」
「……!」
「ライボルトお兄様はわたくしを嫌っていたではありませんか。そして皆の前で嘘をついた……なのに今更、わたくしに縋るのですか?」
「勘違いするな!縋っているのではないッ。それとこれとは話は別だろう!?」
「…………」
そもそも散々、マティルダが誘っても話しかけても冷たく当たっていたライボルト。
マティルダを貶めるためにベンジャミンと不貞行為をしていたと嘘をついていた。
今更『俺のために』と言われても動くわけがないだろう。
マティルダはそれを見越して対策はキチンとしていたし、シエナを虐げている証拠など出てくるわけではないのだ。
そのことがバレてしまい、追い詰められたライボルトは自身の保身のために無理矢理マティルダを連れ戻そうとしている。
(わたくしをなんだと思っているのかしら……)
今までライボルトと親しくしようと努力しきたつもりだったが、我慢してきた怒りが沸々と湧いてくる。
「あなた達がどうなろうと、わたくしにはもう関係ありません。このままブルカリック王国に帰ってください」
「無理矢理にでも連れて帰る……!でなければ俺たちの未来がっ!俺はガルボルグ公爵家を継ぐために今まで努力してきたんだ。それをお前なんかに……っ、お前なんかに奪われてたまるか!」
「…………」
「今まで散々媚を売っていたくせに、急に反抗的になりやがって……!」
ガルボルグ公爵は学園に入る前までは、ライボルトにガルボルグ公爵家を継がせようとしていた。
マティルダがローリーと婚約しているのもあるが、元々マティルダに継がせようとは思っていなかった。
(悪いことは全てマティルダのせい……ね)
それをライボルトは湾曲した形に捉えて、シエナとの関係に溺れて、そのまま努力することからも逃げてしまった。
そして今、取り返しのつかないことをしてしまっている。
(今まで仲良くしようとしていたことを、そんな風に思っていたなんて……)
マティルダが何をしていてもライボルトには違った形に捉えられてしまうことが悲しく感じた。
それはライボルトの中にあるマティルダへの劣等感や焦り、ガルボルグ公爵からのプレッシャーもあったのだろう。




