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シエナのふんわりとしていた雰囲気は以前とは真逆で余裕がなく切羽詰まっているように見える。

ライボルトの目は血走っており、マティルダをじっとりと恨みがこもった瞳で睨みつけている。


(ベンジャミン様が言っていた通りなんだわ。二人はやっぱり追い詰められているのね)


二人は一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。

マティルダもそれに合わせて後退していた。

ニタリと不気味に笑っているライボルトの低い声が耳に届いた。



「久しぶりだな。マティルダ」


「ライボルトお兄様……」


「一緒に来てもらおうか」


「……!?」


「もうあなたはブルカリック王国に戻っていいのよ?」


「そうだ。今すぐにガルボルグ公爵邸に戻れ」



二人が言っている言葉の意味が理解することができなかった。

ただ〝一緒に来てもらう〟〝ブルカリック王国〟〝ガルボルグ公爵邸〟という言葉を聞いて、嫌な予感が頭をよぎる。




「代わりに私がここに残るから安心してね。あなたの役目はもう終わり。ブルカリック王国で好きに生きていいのよ?」


「何を言っているの……?」


「うふふ……だからね、私がここに残るの。私を利用しようとする馬鹿共からベンジャミン様に守ってもらうの」



両手を広げたシエナが当然のように言い放つ。

公の場でマティルダを追い詰めて国外に追い出しておいて、今更なんのつもりだと思っていた。

謝罪もなければ詳しい理由を説明されることもない。

マティルダの心の中には苛立ちとモヤモヤとした気持ちが湧き上がってくる。



「わたくしを追い出したのはあなた達の方でしょう?」


「そうだったかしら?何も覚えてないわ」


「ブルカリック王国とわたくしはもう関係ない。帰って……!」


「チッ……」



シラを切っていたシエナにマティルダがそう言うと眉を顰めた後に大きな舌打ちが聞こえた。

夜の冷たい風が二人の間を吹き抜けて髪を揺らす。

暫くの沈黙の後、シエナは首を傾げてから呟くように言った。



「やっぱりズルはダメなのね。順当にいかなくちゃ。これは間違えたシナリオだったよ」


「あなた、まさか……!」


「頭がお花畑の馬鹿な悪役令嬢でラッキーと思っていたけれど、まさか最後にこんな小賢しいことをして私を困らせるなんて…………最低よ」


「…………」


「悪役令嬢だけが幸せになるなんて、こんなシナリオは間違っているわ!間違っているなら正さなくちゃいけないわよねぇ?」


「わたくしには関係なっ……」


「──ヒロインが処刑される未来なんて、あり得ないでしょうッ!?」



シエナはマティルダの言葉を遮るように叫んだ。

そして聞き間違えでなければシエナは〝悪役令嬢〟〝シナリオ〟と口にしている。

つまりはマティルダと同じ、転生者だということがわかる。


そしてシエナは全員を籠絡した後にマティルダをさっさと追い出したけれど、その後がうまくいかなかったのだろう。


(……嘘ばかりで人を貶めて、上手くいくわけないわ)


マティルダが黙っているのをいいことにシエナは好き放題に言っている。

今までシエナとは話したこともなく、誕生日パーティー振りではあるが、彼女に関わらないという選択肢をとったマティルダは正しかったようだ。



「ベンジャミン様は私のものなのよ!」


「……違うわ!」


「はぁ…………わかったわよ。謝ればいいんでしょう?あなたにしたことは謝るわ。元の場所は返してあげる。これで元通り……ね、いいでしょう?」



感情のこもっていいない謝罪に言葉を失っていた。


(いい訳ないでしょう……?)


まるで自分のために物語があるという口ぶりにマティルダは立ち上がりながら首に横に振った。



「…………嫌よ」


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