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渋っていたベンジャミンだったが、さすがの彼もその理由には頷くしかなかったようだ。
ベンジャミンからの条件は髪をまとめて隠して、眼鏡を掛けてマティルダだとわからないように変装することだった。
服装も地味なワンピースを着ているため、これでは誰もマティルダと気づくことはないだろう。
(久しぶりね!なんとかして宝石店に寄るのよ……!それとお気に入りの砂糖菓子とブルカリック王国にしかないものを買っていきましょう!)
マティルダは久しぶりの買い物にワクワクしていた。
興奮しているマティルダを諌めるように目の前に光る文字が浮かぶ。
『マティルダ、絶対に僕から離れないでよ?』
「ふふっ、わかってますよ」
『それと……余所見をしないで。何かあったらすぐに僕に知らせてね』
「はい、わかりました!」
『絶対だよ?』
「ベンジャミン様、心配しすぎですよ」
後ろには黒いウサギの仮面ではなく、今日は黒い鳥の仮面をつけているベンジャミンの姿があった。
嘴が前に出ており、少々威圧感と嘴が刺さってしまうという恐怖を感じるが、今日はそういう気分なのだろうと思うことにした。
マティルダがブルカリック王国の城下町に足を踏み入れた瞬間、以前と違う変化にすぐに気づくことができた。
(あれ……?町ってこんなに静かだったかしら)
あんなに賑わっていた町も人はまばらで、店自体が開いていないことに気づく。
国で一番、栄えているはずの場所が静まり返っていることに驚いていた。
マティルダは様変わりしてしまった町を見ながら歩いていく。
久しぶりにお気に入りだったレストランに向かい、昼食を食べていたが店員もどことなく元気がないような気がした。
あんなに活気づいていた店内も今はガラガラで人がいない。
「こんなに静かだったかしら。町が……なんか以前と違いますね。ベンジャミン様は何か理由を知っていますか?」
『…………』
「ベンジャミン様?」
仮面をつけているため、ベンジャミンの表情は窺えない。
静かに紅茶のカップを持って、中身が消えていくのを見ていると、ベンジャミンの隣に浮かぶ文字。
『マティルダの国外追放にガルボルグ公爵は怒り、他の貴族達も王家に協力しなくなった。その責任を取るためにマティルダの兄は辺境に送られることになっている。そしてマティルダを傷つけた王太子はもうすぐ廃嫡されるそうだ』
「え……?」
マティルダはベンジャミンの話を聞いて驚いていた。
(わたくしがいなくなったあとは、シエナ様と結ばれてハッピーエンドになったんじゃないの?それにライボルトお兄様まで……どういうこと?)
国外追放になったマティルダが退場して、シエナとローリーが結ばれる。
マティルダが退場したにも関わらず、物語通りに進んでいないことに戸惑っていた。
それにローリーだけではなく、ライボルトまで罰を受けているではないか。
そうなると気になるのはシエナの処遇である。
「あの……シエナ様は、ローリー殿下と一緒にいた御令嬢はどうなるのですか?」
『あの女は最後まで嘘をつき通そうとしていた。恐らく……処刑されるんじゃないかな?』
「…………!」
『光魔法は貴重だけど、国に与えた影響が大きすぎるのと彼女自身、今の段階では成長が見られないことも加えて、国王は切り捨てるつもりだ……表向きはね』
「表向き?」
マティルダは目を見開いた。
ローリーやライボルト達を騙して、マティルダへの扱いや周囲の貴族達の気持ちを考えてシエナは処刑されることが決まったそうだ。
しかしそれは表向きの話で、光魔法を使えるシエナを隠して王家で育てて利用しようとしていた。




