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確かにイグニスとトニトルスがいなければベンジャミンと出会うこともなかったし、こうして幸せな生活を送ることができなかったかもしれない。
それにマティルダもトニトルスと仲良くなったきっかけは雷魔法だ。
この縁を繋いでくれていたのかと思うと、なんだか嬉しかった。
「わたくしはあの時、ベンジャミン様に会えてよかったと思いました」
「え……?」
「ベンジャミン様の前だけでは、本当の自分でいることができたんです。そうでなければ、とっくに潰れていたような気がします」
「嬉しいよ。僕もマティルダに会える時間を密かに楽しみにしていた。話を聞きながら僕が婚約者だったら、こんな辛い思いをさせない……僕なら守ってあげられるのにって」
「……!」
「僕ならマティルダを笑顔で幸せにしてあげられるのに……心の中でずっとそう思っていた」
マティルダはベンジャミンに寄りかかるようにして手を握った。
彼がそう思ってくれていたのなら、あのタイミングでマティルダを助けてくれたのも納得である。
崖の上から足を滑らせた時、ベンジャミンがいてくれなかったらと思うとゾッとする。
きっとマティルダはこの世界から消えていたのだろう。
「ありがとうございます。ベンジャミン様に出会えてよかった」
イグニスはベンジャミンに炎をもらいながら少しずつ元の姿に戻るために暫くはこの家で暮らすそうだ。
しかしその前にこの森でゆっくりと体を休めるそうだ。
トニトルスはその間、イグニスが逃げ出さないように見張っているらしい。
マティルダが「心配なのね」微笑むと、トニトルスは照れ隠しなのか『うるさいわね!』と言って、暴れるイグニスを連れて去って行った。
また一段と賑やかになりそうだと思いつつも、マティルダはベンジャミンと笑い合っていた。
* * *
それから外に出るとマティルダが喜ぶというのをベンジャミンは学んだのか、少しずつ町に買い物に連れて行ってくれるようになった。
マティルダはベンジャミンと一緒に行ったことのない国々を回っていた。
(まさかこんな風に色々な国に行けるなんて夢みたいだわ!)
ベンジャミンはブルカリック王国にいくことだけは「絶対に嫌だ」と頑なに拒否していたが、マティルダはブルカリック王国にある城下町でどうしても買いたいものがあった。
(いつもお世話になっているベンジャミン様に御礼をしたいもの!どうにか質屋に寄って、パーティーにつけていた宝石を売って、ベンジャミン様にプレゼントしたい……!)
右も左もわからない他国では言葉も通じないどころかベンジャミンがいなければコミュニケーションも取れはしない。
だからこそ同行を許可されているのかもしれかいが、これではサプライズのプレゼントができそうにないからだ。
お金も大量にあるが、それは全てベンジャミンのものだ。
マティルダには幸い、ローリーの誕生日パーティーでつけていたイヤリングとネックレスには宝石がたくさんついている。
それを売ったお金でベンジャミンにサプライズでプレゼントを贈りたいと計画を立てていた。
そしてブルカリック王国の宝石店にベンジャミンに似合いそうな懐中時計があることを思い出したマティルダは、ブルカリック王国に行きたいと頼んでいたのだが……。
「……絶対にだめ」
ベンジャミンは断固拒否である。
凄まじい圧に耐えながら、なんとかベンジャミンを説得すること数日。
新しい下着を買いたいという、もっともらしい理由をつけることにより、マティルダはベンジャミンと共にブルカリック王国の城下町に来ることに成功した。




