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「イグニスは長生きなんですか?」
『オレはフェニックスだからな』
「フェニックスって、不死鳥と呼ばれているあのフェニックスのことですか!?」
『ああ、そうだぞ!トニトルスはサンダーバードで……』
『その呼び方は気に入らないからやめて頂戴!』
『じゃあ雷鳥か?』
『それも嫌!もう黙りなさいよっ!』
「!?!?」
どうやらこの会話であることがマティルダの頭に思い浮かぶ。
不死鳥と呼ばれるフェニックス、イグニスと出会ったことで死んだにも関わらず、この世界に生き返らせてもらった。
そしてトニトルスは雷鳥ゆえにマティルダの雷魔法をご飯にしていたということなのだろう。
(わたくしはあの時、イグニスを助けたからここにいるのね……)
イグニスは色んな世界を気ままに旅をすることがあるそうで、トニトルスはそれをよく思っていないらしい。
何故なら力を使い果たして行き倒れしてしまうからだそうだ。
本人は「生き返るから」と呑気に言っているが、トニトルスはイグニスが心配ということなのだろう。
不思議な二人に「もしかして恋人?」と聞くと、トニトルスに電気ショックを食らったが、マティルダは全くダメージを受けなかった。
『そっ、そ、そんなわけないでしょう!?』
「そうなの……わたくしてっきりそうなのかと」
『おぉ、すげぇ!トニトルスの電撃に耐えられる人間がこの世にいるなんて」
イグニスが興奮気味に声を上げる。
トニトルスは珍しく吃っているが、どうやらイグニスに長年の片思い中のようだ。
しかし全く気にしていないイグニスを見ると、トニトルスは苦労しているようだ。
ニタリと笑うマティルダにトニトルスは黙っていろと言わんばかりに頭を突いているとベンジャミンがトニトルスをマティルダから引き剥がす。
トニトルスが暴れるせいでバサリと紫色の羽根が部屋の中を舞った。
「こら、トニトルス……マティルダをいじめたら怒るよ」
『わかってるわよ!』
「マティルダ、大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます。ベンジャミン様」
『それにしてもまさかベンジャミンと暮らしていて、こうしてまた会えるとは……驚きだな』
イグニスはマティルダの頭に止まる。
トニトルスと違って、小鳥なので重みを感じない。
ベンジャミンがトニトルスを宥めながら納得したように呟いた。
「だからマティルダからイグニスの気配がしたのか」
「わたくしから……?」
「ああ、そうなんだ。トニトルスがイグニスの気配を感じるっていうから近づいてみたものの、よくわからなくて……もっと近づいて調査しようとしたら都合よくガルボルグ公爵からマティルダの講師を提案されたんだ」
「だからわたくしの魔法講師を引き受けてくださったのですね」
「うん」
人前に滅多に姿を現さないベンジャミンがマティルダの講師を引き受けたまさかの理由に驚いていた。
ただの気まぐれかと思いきや、ちゃんとした理由があったようだ。
そしてベンジャミンのペットかと思っていたイグニスとトニトルスは元は師匠のもので、他にも黒や青など様々な鳥を飼っていたそうだ。
鳥達はそれぞれ不思議な能力を持っているらしい。
「師匠が僕のために二羽を置いていってくれたんだ」
「そうだったんですか!?」
「ただの偶然かもしれないけれど、まるでこうなることがわかっているかのように二羽を残していってくれた」
「え……?」
「イグニスとトニトルスはマティルダのところに導いてくれた」
「……ベンジャミン様」
そう言って柔らかく微笑むベンジャミンの姿を見ているとこちらまで嬉しくなってしまう。




