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「そのハーフグローブは……?」


「師匠からもらったんだ。普段から力を制御できるようにするために」


「これは力を制御するためのものだったんですか?わたくしはてっきり潔癖症なのかと……」


「うん。僕は人よりも力が強いから、すぐに壊してしまわないように……。これをつけていればコントロールできるようになるからって。今思えばおまじないのようなものだと思う」


「……そうなのですね」


「それに大切なものは壊さないように、傷つけてしまわないように宝箱に入れて、出しちゃいけないって教わったんだ。マティルダは僕の〝宝物〟だから……」



ベンジャミンはそう言って、マティルダに手を伸ばした。

そっとマティルダの金色の髪を優しく撫でた。



「今は魔力をコントロールできるようになったけど昔は……師匠に怒られてばかりいた」


「師匠……?」


「魔族だって言ってた。この森に捨てられていた僕を拾って育ててくれた人だ」


「……え?」


「僕は親の顔を知らないけれど師匠が親代わりになって生活するための知恵を授けてくれた。その時にたくさんの魔法や人間のことを教わったんだ」



ベンジャミンが初めて話してくれる過去の話にマティルダは静かに耳を傾けていたんだ。

魔族とは魔獣と違って、数は少ないけれど強大な力を持っていると聞いたことがあった。

見た目は人に近いものがあるが、全く別の存在らしい。

マティルダになってから長いが未だに魔族を見たことがなかった。


そんな魔族に育てられたベンジャミンは、強大な力を制御するために厳しい指導を受けたようだった。

魔法を習い、生活に必要なことも教わったのだと懐かしそうに話してくれた。



「けれど師匠は突然、僕の前から姿を消した」


「…………」


「このウサギの仮面も師匠が彫ってくれた。これが一番のお気に入りだ」



ベンジャミンが手品のように何もない空間から取り出したのは黒いウサギの仮面だった。

他にも師匠が置いていった色んな形をした仮面を持っているそうだ。



「どうして仮面を?喋れるのに喋らなかったのはどうしてですか?」


「師匠がずっとそうだったんだ。これと同じ白いウサギの仮面と、こんな感じの服を着て空中に浮かぶ文字で会話していた」



ベンジャミンの話はまるで御伽噺のようだと思った。

彼が〝師匠〟と呼ぶ人物が何者か気になったが、ベンジャミンのように仮面を取ったことはなかったそうだ。

物理的に人と距離を取ってコミュニケーションをしていたのは、ベンジャミンを傷つけないようにしていたのではないかと語った。



「僕もずっと仮面をつけたままでいようと思っていた」


「え……?」


「でも我慢できなかった。こうして直接触れて、話してみたいと思ったのはマティルダが初めてだったから……。マティルダに触ってみてもいい?」


「もちろんですわ」



いつもは黒い手袋を嵌めているベンジャミンだが、ハーフグローブを取って今は素肌が見えている。

恐る恐る伸ばされるベンジャミンの手をとって頬を寄せた。

手のひらが優しく肌を滑る。

興奮して走り回っていたせいか、ベンジャミンの冷たい手のひらは気持ちいい。


その上から重ねるようにしてマティルダは手を添えた。

少しずつベンジャミンが心を開いてくれているようで嬉しかった。



「話してくださってありがとうございます。ベンジャミン様のことが知れて嬉しいです」


「……!」


「これから一緒に過ごしながら、お互いを知っていきましょうね」



マティルダがそう言うと、ベンジャミンは一瞬だけ泣きそうな表情を見せたが、すぐにいつものように笑みを浮かべた。


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