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マティルダは身を乗り出しながら自信満々で答えた。
ベンジャミンは顎に手を当てて考え込む素振りを見せた後に頷いた。
「わかった。僕と一緒ならいいよ」
「やったぁーっ!」
マティルダが体を起こしてぴょんぴょんと跳ねていると、ベンジャミンは複雑そうな表情でその姿を見ていた。
「ベンジャミン様、まずはわたくし庭に出たいですわ」
「え……?庭って、塔のすぐ下?」
「えぇ!早く行きましょう」
「あ、うん……」
ベンジャミンにマティルダは〝抱えて?〟と言わんばかりにキラキラした瞳で手を伸ばして待っていた。
フッと息を漏らした後に笑みを浮かべたベンジャミンはマティルダを抱あげる。
そして、いつもベンジャミンが外に出る時に使っている窓から一カ月振りに外に出る。
ブワッと強い風と空の上に浮いているような感覚にマティルダはワクワクする胸を押さえていた。
まるで見えない階段を下っていくようにベンジャミンに抱えられながら地面に向かって降りていく。
早く走り回りたくてソワソワしていたが、ベンジャミンがゆっくりとマティルダを地に降ろす。
足をついた瞬間にマティルダは興奮してクルクルと回りながら喜びを表現していた。
躓いてその場に転んでしまいそうになるのをベンジャミンが支えてくれたようだ。
腹部に回された腕と「そんなに走り回ったら危ないよ?塔に戻る?」という、ベンジャミンの恐ろしい顔を見つつマティルダは首を横に振りながらヘラリと笑みを浮かべた。
「気をつけてね」と言って手を離したベンジャミンの言葉に頷いた。
彼に御礼を言ってから体を起こす。
『一緒に』という言葉通りに、そのままベンジャミンの手を握りながら塔の周りをグルリと一周歩いていく。
ただ歩いているだけなのに感動してしまうのは、ずっと家の中にいたからだろう。
上からはよく見えなかった色とりどりの花が咲いている場所にベンジャミンと共に座り、一面に広がっている場所で花を摘んで、ベンジャミンの長い髪に飾りながら遊んでいた。
「マティルダ、何してるの?」
「ふふっ、ベンジャミン様の髪が綺麗なのでつい」
「マティルダの髪も綺麗だね」
「なんだかベンジャミン様が最初にわたくしの周りに花を飾っていた時の気持ちを思い出しますわ」
「マティルダは花が好きかと思ったから……」
初めてここに来た時に上も下も右も左も花だらけだったことを思い出していた。
マティルダはキョロキョロと辺りを見回しながら立ち上がり、ベンジャミンの手を引いて走り出した。
「ベンジャミン様、今度はあちらに行きましょう!」
「う、うん!」
マティルダに連れられるままベンジャミンはついてくる。
開けた場所に座って、何もすることなくのんびりと寝転ぶと、彼も同じようにその場に寝転んで不思議そうにしている。
今日は天気も良く、太陽の光を全身に浴びながら思いきり伸びをした。
「やっぱり外は気持ちいいですね……!」
「そう?」
「今度は一緒に買い物に行けるのが楽しみですね」
「うん」
ベンジャミンは終始、戸惑いつつもマティルダについてくる。
しかし次第に楽しそうな笑みを見せてくれたことに安堵していた。
「マティルダ」
「はい、なんでしょう」
「僕が怖い……?」
ベンジャミンの言葉にマティルダは首を傾げた。
「いいえ?不思議だとは思ってましたが、怖いと思ったことはありませんよ」
「……そっか」
ベンジャミンは自分の手のひらを握ったり開いたりしている。
いつもつけている黒くて少し短いハーフグローブは絶対に外さないようにしているようだ。
手のひらは半分見えていて、その先が隠れている。




