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そのまま甘い時間を過ごしていたのだが、結局原因もわからないままだ。

根本的な解決にはなっていないのかもしれないと思い、マティルダは顔を上げた。



「ベンジャミン様になにか悩みがあったら聞きますから!」


「悩み……?」


「数日前からベンジャミン様に元気がないことが心配だったんです」


「……!?」


「何かあったのですか?」


「マティルダ……」



やはり心当たりがあるのか珍しく反応を返したベンジャミンは眉根を顰めた。

それから唇を開いたり、閉じたりしている彼が何かを伝えようとしているのではないかと、マティルダは改めて彼の隣に座り直して手を握りながら言葉を待っていた。


先程、開いた窓からな気持ちのいい風が吹き込んで、ベンジャミンとマティルダの髪を揺らした。

するとベンジャミンは小さな声でポツリと呟いた。



「……マティルダはブルカリック王国に帰りたいんじゃないかと思ったんだ。こんな森の中じゃなくて、あの国で貴族の令嬢として暮らしていた方が……」


「そんなことありませんよ?」


「僕はマティルダの意思を無視して、ここに閉じ込めている。マティルダは外に出たいことも知ってる。でも僕は怖いんだ」


「…………?」


「今まで心から大切だと思えたのも、自分から欲しいと思ったのもマティルダが初めてだった。この気持ちをどう伝えればいいかわからない。マティルダが僕の見えないところに行ってしまうことが許せないんだ」


「……ベンジャミン様?」


「マティルダを好きだと思うほど、その気持ちが強くなる。恋人でも夫婦という言葉を使っても足りないんだ……全部が、マティルダの全てが欲しいと思ってしまう」



両手で顔を覆って体を丸めているベンジャミンの背をそっと撫でた。

ベンジャミンが何を言っているのか、半分わからないマティルダだったが、今まで自由に振る舞っているように見えて、彼は彼なりに自分の気持ちと戦っていたということだろう。



「でも本当はマティルダは僕とではなく、ブルカリック王国で暮らした方が幸せなんじゃないかって思ってしまった。あの国はマティルダを必要としている」


「必要としている?わたくしを、ですか?」


「今までは自分がよければいいと思っていたけど、マティルダが笑っていてくれないと嫌なんだ。マティルダが幸せでいることが僕の幸せなのに、僕のマティルダを閉じ込めてしまいたいって気持ちが邪魔をする……僕はどうしたらいい?」



まさかベンジャミンがこんな風に思い悩んでいるとは思わずに驚いていた。

トニトルスの言う通り、やはり本人に聞いて見なければわからないこともあるようだ。

それにもう一緒に暮らし始めて一カ月以上も経っている。


(今更……?わたくし、ブルカリック王国に帰りたいと言ったことあったかしら?ないわよね)


首を捻るマティルダとは違い、ベンジャミンは再び落ち込んでいるように見える。

マティルダはベンジャミンに寄り添うようにして答えた。



「先程も言った通り、わたくしはベンジャミン様とここにいられることを幸せに思っています」


「……!」


「だから心配しなくても大丈夫です」



そう言うとベンジャミンの表情がパッと明るくなったような気がした。

だが彼の言うことをこのまま聞いて、この家の中にずっと閉じこもっていることはマティルダにはできそうにはなかった。


(ベンジャミン様の圧がすごくて、ずっと言えなかったけど今こそ言うのよ……!)


ベンジャミンの気持ちを聞いて、マティルダもこれから二人の関係がよりよくなるためにどうすればいいのかはわかっている。



「ベンジャミン様の気持ちはわかりました」


「……マティルダ」


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