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マティルダはベンジャミンの手を取り、座っているソファの隣に腰掛けてから手を繋いだ。

これだけでも精一杯になっていたが、このままではいけないと気合を入れて少しずつ距離を詰めて肩にもたれようとした時だった。



「ねぇ、マティルダ」


「ひゃい……!?」



マティルダはベンジャミンの肩に寄りかかろうとしていたのを制止されたのかと思い大きく肩を揺らした。

こちらを真剣に見つめる紫色の瞳は、僅かに揺れ動いているような気がした。


(これは……もしかしてキスの流れ?いや、違うわよね?)


彼の無言で何かを問いかける様子を見ていると胸が騒ついてしまう。

こんな時、男性経験が乏しいことが嫌になる。


(ああぁぁっ、もう!こんな時はどうしたら相手を元気づけられるの?ベンジャミン様はなんて呼んだら喜んでくれるの!?ベン……?もしくはジャミン?恥ずかしくて無理……!)


慌ててパニックになっていたマティルダは兎に角、自分の気持ちを伝えようと考えを巡らせていた。


(何か言わなくちゃ……!ベンジャミン様が安心するような言葉をっ!考えるのよ、マティルダッ!!!!)


そして思いきって自分の気持ちを伝えようと口を開いた。



「マティルダはあの国に帰っ……」


「───わたくしはベンジャミン様と一緒にいたいですッ!!!!!!」


「え……?」


「……っ」



我ながら大胆な発言をしてしまったと気づいて口元を押さえた。

恐る恐る顔を上げると彼と目があった。

これでもかと見開かれた瞳に、やってしまったという後悔と羞恥心が一気に襲ってくる。


(もっといい伝え方があったはずのに……っ!)


それにベンジャミンの言葉を遮ってしまったと聞き返そうとするけれど、今更かと思い唇を閉じる。

心の中ではベンジャミンを元気づけたいと思っていても、上手く言葉がまとまらない。

頭の中で言葉がぐるぐると駆け巡り、考えている最中にベンジャミンから声が掛かる。



「マティルダ、それって……本当の気持ち?」


「あのー……あのですね!つまりわたくしはこの生活が好きですし、そのっ、今は毎日が幸せだと思っておりまして、ブルカリック王国に戻りたいとか、以前のように暮らしたいとかは思っていないということをお伝えさせていただけたらと思いまして……はい!」


「…………!」


「だ、だからベンジャミン様、元気を出してくださいっ!」



マティルダは無意識にベンジャミンの前に握手を求めるように手を出した。

まるで「付き合ってください」と告白してオッケーだったら手を握ってください、と言わんばかりの対応だが、マティルダは焦りすぎてそのことに気がつかない。

頭の中では汗ばんだ手を一回拭いたいと思いと、これからどうすればいいのかという戸惑いがぶつかり合っていた。



「マティルダ、ありがとう」


「わっ……!?」



マティルダは手を掴まれて、そのまま体を引かれるとベンジャミンの上にのしかかるようにして倒れ込んだ。

自分の金色の髪で視界が覆われてしまい、髪を掻き上げつつもベンジャミンを見ると、彼は先程とは打って変わって心底嬉しそうに微笑んでいる。

まるで子供がお気に入りのぬいぐるみを抱きしめるように、ベンジャミンはマティルダの髪を優しく撫でながら笑みを浮かべている。



「マティルダの気持ちが聞けて嬉しいな」


「ベンジャミン様、元気になりましたか!?」


「僕はずっと元気だよ?」


「???」


「でも、もっと元気になった」



マティルダはベンジャミンの言葉の意味がわからずに首を捻る。

しかし何故かわからないがベンジャミンが上機嫌になったような気がして、安心感に胸に耳を当てるようにして擦り寄った。



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