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「ローリー殿下……落ちついて私の話を聞いてください」
「……ッ」
シエナはローリーが怒っているにも関わらず、いつものようにニッコリと笑いながらこちらに近づいてくる。
そしてローリーの手を優しく握った。
振り払おうとしても、凄まじい力で押さえられている。
「今すぐ離せ……っ」
「ねぇ……ローリー殿下。この物語はおかしくなってしまったわ」
「は……?」
「元に戻しましょう?だからわたしと一緒に来て下さい」
シエナは淡々とそう語った。
それにはローリーも動揺していた。
「意味のわからないことを言うな……!それと俺の前に二度とその顔を見せるな!」
ローリーがそう言うとシエナは一瞬だけ真顔になると、口角をあげてニタリと笑った。
「ウフフ、本来の形を取り戻せるのに残念だわ。ライボルト様、行きましょうか」
「ああ……」
ライボルトの目の下はクマがひどく、頬が痩せこけている。
シエナの言葉に素直に頷いている。
こんな状況に追い込まれているにも関わらず、自信満々の二人を見て、ローリーの頭にある言葉が過ぎる。
(もし、本当に元に戻せるのなら……)
あの地位に戻れるのならなんだってする、ローリーはそう思った。
この場から去ろうとする二人を引き止めるようにして声を上げた。
「ちょっと待て……!どういうことか説明しろっ」
ローリーの声に二人はピタリと足を止めた。
ニッコリと微笑んだシエナは首を動かして少しだけ振り返る。
ライボルトが呟くようにして言った。
「マティルダを取り戻すんだ」
「……なん、だと!?」
確かにマティルダが戻ってさえすれば、ガルボルグ公爵も満足するだろう。
しかしマティルダは今、ベンジャミンといて居場所もわからない。
そんな状況でどうやって取り戻すというのだろうか。
そしてベンジャミンはマティルダに執着しているように見えた。
最強の魔法使いである彼にとって自分は赤子のように捻り潰されてしまう。
ベンジャミンの言葉と塵になったソファを思い出したローリーは首を横に振った。
「…………無理だ」
「無理じゃない。わたしはあの方の居場所を知っているわ」
「は……?」
「そこにマティルダもいる。絶対に……」
シエナは怪しい笑みを浮かべたまま肩を揺らしている。
「あの魔法使いに勝てるわけがないっ!」
「当然よ。ベンジャミン様に勝てるわけないでしょう?」
「ベンジャミンを知っているのか!?」
「わたしがベンジャミン様を説得するわ。その間にあなた達はマティルダを国に連れて帰ればいい」
「シエナはどうするんだ?」
「わたしはベンジャミン様と結婚して、ここじゃない場所で幸せに暮らすから」
「は……!?」
「大丈夫、あの人は必ずわたしを好きになる」
あまりに自信満々に言うものだからローリーは心を揺さぶられていた。
「ほんとに……?」
ローリーの口から本音が漏れる。
心の中では馬鹿馬鹿しいとは思っていた。
こんな陳腐な作戦、上手く行くはずないと……。
けれどもしも、があるのだとするのなら。
このまま今までのものを失うのなら、賭けてもいいと思った。
そしてあんなにもシエナを大切にしたいと思っていた気持ちはなくなっていた。
むしろシエナが犠牲になり、マティルダを得ることができるならそれでいいと。
ローリーの唇が弧を描いた。
「案内してくれ……」
「まぁ、さすがローリー殿下!話が早いですわ」
「行こう。全てを元に戻すんだ」
「ああ、そうしよう」
「ウフフ……」
ローリーも黒いローブを受け取った。
まるでこの選択をすることをわかっていたようだ。
シエナが再び光の玉を手のひらに浮かべる。
ローリーは城の裏手へと周り、暗闇へと進んでいった。
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