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そしてガルボルグ公爵は項垂れるライボルトの腕を掴み「期待してますぞ、ローリー殿下」と吐き捨てるように言うと、部屋から去っていった。
父の重たい溜息が聞こえた。
「民はマティルダに何かあったのかと心配している」
「え……?」
「あの男爵令嬢を追いかけ回していたお前なんかよりも、マティルダの方がずっと国民から慕われているということだ」
「そ、そんな……嘘だ」
「状況が見えたのなら、さっさとマティルダを連れ戻してこいッ!連れ戻せなければライボルトと同じ未来が待っていると思えっ!!!」
「は、はい!」
「二部のパーティーは中止だと伝えろ!」
父が執事に指示を出す。
(こんなはずじゃなかった……)
最高の誕生日になるはずが、一転して最悪な誕生日になってしまった。
ローリーは明るくなった部屋の中で、手のひらを握りしめていた。
まさか自分が追い出したマティルダを探さなければならないとは……。
(今すぐマティルダを探し出すしかない……!)
ローリーは騎士団を呼んで、すぐに捜索隊を出すように頼んだ。
(まだそう遠くには行っていないはずだ!絶対に間に合う)
すぐに数百人の捜索隊が出された。
丸一日の捜索の後、ローリーの元に届いた知らせは最悪なものだった。
「ガルボルグ邸の近くの森の中を捜索していたのですが崖の近くで、この靴が……」
「これは、まさか……!」
「ガルボルグ公爵に確認してみなければわかりませんが、恐らく……マティルダ様のものかと思われます」
「そんな……マティルダはもうっ」
崖に靴が落ちていて、マティルダはいないとなれば間違いなく……。
(マティルダは、もういないということか……!?)
ローリーの顔は青ざめていき、力なくソファに座り込んでいた。
両手で顔を覆う。これから自分がどうなってしまうのか考えるだけで恐ろしい。
そして騎士達に父への報告を頼んだ。
そこからローリーは地獄を味わうことになった。
ガルボルグ公爵はマティルダの現状を聞いて、怒り狂っていた。
あれだけ厳しく当たっていても、マティルダは可愛い存在だったのだろう。
そしてガルボルグ公爵家の協力が得られなくなったことで、城や町から明かりが消えた。
なんとか火で明かりをつけてはいたが、魔導具を使えなくなり不自由を強いられて、民達はもちろん反発した。
この状況を誰が引き起こしたのか……。
大々的にマティルダに国外追放のパフォーマンスを行ったローリー達は批判の的となった。
そして高位貴族達が王家に不満を示していた。
それはマティルダを慕っていた令嬢達や令息達の仕業だった。
彼らは王家への協力を拒み、更に王家へ批判は高まっていく。
あの日からシエナにもライボルトにも会っていない。
学園に行けば自分がどんな目で見られるか、考えなくてもわかるような気がした。
そんなローリーの代わりにシエナの発言が事実だったのか、学園で調査が入ることになった。
ローリーはソワソワした気持ちでその結果を待っていたのだ。
(シエナは間違っていない……!今はシエナだけが俺の心の支えなのだ)
しかしそんな期待もあっさりと裏切られることになる。
父が持ってきた書類には、マティルダがシエナに何かしているのを見た人物もいないそうだ。
「これでもまだシエナが正しいと言えるのか?」
「……っ」
「シエナ・レデュラを今すぐ連れて来い」
頭を鈍器で殴られたような気分だった。
それだけシエナに裏切られたことが信じられなかった。
しかし城に呼ばれたシエナは頑なに「マティルダ様にやられました」という態度を崩さなかった。




