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しかし一向に町の明かりがつかないことにローリーは疑問に思い、ライボルトに問いかけようとしたところ、彼の額に玉のような汗が滲んでいることに気づく。
そして肩を荒く動かして金色の玉から手を離してしまった。
「お、おい!まだ町に明かりは戻っていないぞ!?もっと魔力を……」
「──わかっている!」
「ライボルト……?」
感情を荒げたライボルトの顔が歪んでいる。
そして崩れ落ちるようにその場に座り込んで何度も何度も床を叩いた。
その手は大きく震えている。
そんなタイミングで扉が開き、ガルボルグ公爵と父が入ってくる。
ガルボルグ公爵の冷めた視線がライボルトに突き刺さる。
「やはりお前の実力などその程度か」
「──違いますっ!今日はたまたま調子が悪くてっ」
「ふん!皆から報告は受けている。魔石に魔力を込めることなく、この仕事も忙しいからなどと言い訳してマティルダに任せきりだったそうだな……!こうなることは目に見えてわかっていた」
「……っ」
「なのにお前は現実から目を背け、マティルダを妬み学園に入り浸っていた。お前が仕事をしない分、ガルボルグ公爵家に舞い込む仕事を誰が代わりこなしていたと思う?」
「そ、れは……」
「マティルダと私だ。その分、マティルダは力をつけていった。本人も自覚しないうちに強大な力を得た。私よりも大きな力をな」
「嘘だっ!あの女にそんなことがっ……できるはずがない」
ガルボルグ公爵はそう言って力を込めると、ちらほらと町に明かりがついた。
しかし今までとは違い、その明かりは疎だった。
「ここ数年、マティルダに頼りすぎたやもしれぬ。私が力を込めてもこの程度か……」
「……!」
ガルボルグ公爵とライボルトと二人合わせてもマティルダの力には届かない。
その事実にローリーは驚きを隠せなかった。
ライボルトは体を丸めて頭を抱えている。
「これ以上、無能なやつはガルボルグ公爵家にはいらぬ。家を出て好きに生きろ」
ガルボルグ公爵の声は冷たかった。
昔からローリーは厳格なガルボルグ公爵に苦手意識を持っていた。
そして唖然とするローリーの前に立ったガルボルグ公爵の圧に一歩、また一歩と後退していく。
「マティルダに婚約破棄を告げただけではなく、国外に追放したというのは事実ですかな?」
「それには理由が……」
「陳腐な理由ならば陛下から伺いましたが、マティルダが光魔法を使う令嬢を虐げた証拠はないどころか……周りの令息と令嬢達がマティルダを庇ってくれていますが、どう説明するおつもりですかな?」
「……っ」
「正当な理由がない限り、我々は今回のことを許すわけにはいかない。よってこれからは王家に協力するつもりはない」
「ガ、ガルボルグ公爵……!これは義務ですぞ」
「義務だろうがなんだろうが関係ないっ!娘を理由もなく国から追放しておいて国に尽くせだと?ならば我々はマティルダ同様にこの国から出ていきましょうぞ」
「ぐっ……!」
「他の雷魔法の使い手では精々、城の灯りをつけるくらいでしょうな。魔導具が使えなくなり魔石が流通しなくなれば民からの反発は免れないでしょうな」
父が顔を歪めてガルボルグ公爵を見た。
(も、もしそんなことになれば……国は!)
なんとしてもマティルダを悪にしなければならないとローリーは切り札を出す。
「し、しかしマティルダは魔法講師としてガルボルグ邸に来ていたベンジャミンという男と不貞行為を……っ」
「ありえませんな」
「なっ……!」
そう言い切ったガルボルグ公爵は顔色ひとつ変えることはなかった。
父は「やはりか」と呟いて額を押さえている。




