4
それに加えてマティルダ含め、ガルボルグ公爵家は国にとって重要な働きをしているため、国で大きな権限を握っている。
その理由は水、火、雷は生活に必要で大切な魔法とされているからだ。
今回、王家には水属性と火属性を持つ子供が二人生まれたのだが、雷魔法を持つ者が王家にはいなくなってしまったため、ガルボルグ公爵家の者を頼るしかなかった。
マティルダは幼い頃から城で王妃教育を受けつつ、王家と国のために働いてきた。
そして今も、ほぼ強制的に婚約者にされそうになっている。
なんとかローリーから婚約を解消してもらおうと働きかけているのだが、彼は動くことはない。
態度は一貫して変わらず、全く興味を持たれていない。
当然だがマティルダもそんなローリーに幼い頃から良い印象を抱くわけもなく、二人の仲は歪なままである。
(ヒロインみたいな子が悪役令嬢になったら、二人の心を開けたりとか漫画みたいにコロッと好意を持ってもらえるようにできるんでしょうけど……)
そんな関係を懸命に変えようとしてみるものの、現実はそう上手くはいかない。
ろくに彼氏もできたこともなく、男性とうまくコミュニケーションを取ったこともないためか距離を測りかねていた。
(今日も仲良くできなかった……)
失敗を繰り返して、家に帰れば厳しい魔法訓練と両親の期待に応える日々。
だが元社畜だけあり、魔法の訓練や王妃教育は驚くほど上手くいった。
問題は人間関係の方で、家族関係とローリーとの関係だけは上手くはいかない。
そして抵抗虚しく、ついにローリーの婚約者になってしまう。
(くっ!やっぱり権力には敵わないのよ……現代社会と同じだわ)
しかしマティルダの努力も無駄ではなかった。
マティルダのキツい性格が柔らかくなったせいか、一部の侍女や使用人達は好意的に接してくれるようになった。
ガルボルグ公爵邸での居心地は少しずつよくなっていた。
侍女達と女友達のように仲良く喋ったり、洗濯や掃除を手伝ったりしつつ仲を深めていく。
やはり突然、貴族として完璧に振る舞うことに抵抗があったので、染みついた癖の赴くままに手を動かしていた。
こうして無心に家事をしていると荒んだ心が落ち着いた。
(ずっと一人暮らしをしていたんだもの……なんだってできるような気がするわ)
素を出せるおかげで屋敷での生活は公爵達がいない時限定で快適である。
しかし別人に生まれ変わったことで、男性関係を作ることがいきなり上手くなることはない。
(これからどうしよう……)
寝る前に未来のことを考えると気分が暗くなる。
しかし二度目の人生、幸せになりたいと頑張ってみるものの特に変化がないどころか悪化しているような気がしていた。
いくら兄妹仲を良くしようと持っている知識をフル活用してみても、婚約を避けようとしてみても結局、乙女ゲーム通りになってしまう。
家族と攻略対象者達との仲は深められないのに、何故かゲームに関係のない人達とばかり仲が良くなっていく。
(国王陛下と王妃陛下、他の令息や令嬢達とも仲良くすることができているし、屋敷の人達とも。なのになぜか重要人物との関係は変わらないのはなんで!?わたくしの何がいけないのか誰か教えてッ!!!!)
頭に思い浮かぶのは『断罪』の二文字である。
そうならないために困っている人を助けて、マティルダは町に行っては善行を繰り返す。
味方を徐々に増やしていくことには成功するものの、何故か攻略対象者達との関係は悪化の一途を辿る。