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「何度かお前も会ったことがある。しかし彼は人嫌いに加えて、魔法で他者から認識しづらいように調整しているそうだ」
「認識しづらくする……?そんな魔法、聞いたことがないですよ!?」
「そうだろうな。ベンジャミンは全魔法属性を使いこなせるという噂だ」
「…………そんなことって」
「そうでなければ説明がつかないことが多すぎる。奴は化け物だ。しかし、もしマティルダを気に入っているのなら、他国を出し抜けるこれ以上ない大きなチャンスだったのにっ!とりあえずガルボルグ公爵に確認せねば」
「父上、これは……っ」
「やはりマティルダは素晴らしい力を持っている。なのにそれを捨ててしまうとは愚かにも程がある……!お前の目は節穴どころか何も見えていないのか!?」
壁を叩いて悔しそうに唇を噛んでいる父の表情を見る。
ローリーの不貞行為は許されないのに、マティルダは栄誉として扱われることが納得できなかった。
(マティルダはそんな凄い奴に認められたというのか?いや違う……!まさか俺への当てつけに……?)
そしてもう一つ、隣にいるシエナにも異変が起こっていた。
「あの女ッ!あの女っ、本当にありえないわ……!最低よッ」
「シエナ……?」
「まさか隠れてベンジャミン様に近づいていたなんて……!」
シエナの体が大きく震えて、顔が歪んでいる。
ゾッとするような表情と共に、シエナが浮かべていた明かりがチカチカと点滅して消えたことで部屋が暗くなった。
「まだ部屋が暗いのか!?何故、こんなことに……!いつもならば明るくなる時間だろう?」
ローリーがそう言うと、後ろに控えていた執事が魔石を使って蝋燭に火を灯す。
ぼんやりとした灯りの中でもわかるくらい、父の顔が真っ赤になっている。
「──何を言っているッ!マティルダを追い出したのはお前だろう!?」
「……え?」
「この事態を引き起こしたのはお前だと言っているんだ!」
「な、なにを言っているのですか……?」
「それはこちらのセリフだっ!最近、マティルダがこの辺り一帯の灯りを全てつけていたんだ!毎日、城に通って皆のためにとなっ!」
寝耳に水だった。
ローリーは先程から父が何を言っているか理解できなかった。
マティルダが毎日、城に通っている理由を知ろうとしたこともなかったからだ。
しかし雷魔法を使えるのはマティルダだけではない。
「今すぐガルボルグ公爵とライボルトにマティルダの代わりをしてもらえばいいだけじゃないか!元々、そうしていたはずでしょう!?」
「致し方ない。ベンジャミンのことについて聞きたいところだが、先に魔法で灯りをつけてもらうか……」
「このままではパーティーが続けられなくなってしまうっ!」
そんな話をしてた時だった。
慌ただしい足音が次々に響いた時に何人かの騎士達が顔を青くして部屋に飛び込んでくる。
「陛下、大変です……!」
「今、大切な話を……っ」
「民達が押し寄せています!」
「なに!?」
「町が急に暗くなったのは何故かと怒っていて……!今っ、門番達が食い止めていますが時間の問題かと」
「ええい!次から次へと……!」
「ち、父上……!パーティーはっ」
「お前の誕生日パーティーなどしておれん!」
「なっ!どうしてですか!?」
「明かりがないからに決まっているだろう!?」
「ならライボルトをすぐに呼び出せばいいっ!」
「…………なら、この事態を収めてパーティーを開いてみせろ」
父の言葉にローリーは大きく頷いた。
(……ライボルトに灯りをつけさせれば、城も明るくなり民も満足するだろう!)




