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あまりの勢いにローリーは仰け反った。
しかしこちらにはちゃんとした理由があると、ローリーは説明するように話していく。
学園でマティルダがシエナに対しての数々の仕打ち、仲間の令嬢達を巻き込んで、シエナを追い詰めていったこともそうだ。
「マティルダがそれを行ったという証拠は?」
「だからシエナが……」
「シエナ、といったか。レディナ男爵家の令嬢か。今ローリーが話したことは全て事実なのか?」
「はい、陛下……!ローリー殿下がわたくしに優しくしてくださることが気に障ったみたいで……」
「陰でコソコソと虐げるなど、次期王妃として、俺の婚約者として相応しくありませんっ!」
しかし父から返ってきたのは意外な一言だった。
「それで……?」
「…………え?」
「まさかそれだけか?」
「な、何を言っているのですか?今、学園でのマティルダの卑劣な行為の数々を今、話したではありませんか!」
「他に誰がその場面を見ている?名前を言え」
「はい……?」
「誰か他にそれを証明するものはいるのかと聞いているんだ」
ローリーはそう問われてシエナに視線を向けた。
シエナは顎に手を当て、潤んだ瞳でこちらを見ている。
苦い表情を浮かべると、両親は荒く息を吐き出して「証拠はあるのか!?」と問い詰めてくる。
「シ、シエナ……どうなんだ?」
「隠れてやられていたので……それに皆さん、マティルダ様の味方ですもん」
シエナの言葉に納得したローリーは「マティルダに脅されているのです!」と声を上げた。
「この数時間で、マティルダの処遇に納得できないと不満を抱き、抗議文が大量に集まっておる」
「抗議文!?まさかそんな……!」
「──何ですって!?」
隣にいるシエナが大声をあげたことに驚いている間もなく、父は数十枚の紙をテーブルに置いた。
ローリーは紙を手に取ると、そこに書いてある内容に目を疑った。
次の紙にもその次の紙にも同じように今回の件はマティルダに非はないという内容が書かれていた。
それは先程まで、パーティーに参加していた令嬢やその婚約者、そしてマティルダを慕う令息達だということがわかる。
(あ、ありえない……!)
「マティルダは皆を庇い、一人ででっち上げの罪を背負い扉から出て行ったと書いてある!」
「そんなはずは……」
「これを覆す証明はできるのかと聞いているのだ」
「なっ……!」
「それとここにも書いてあるが、不貞行為を行っていたのはお前の方だと皆が証言している」
「……!?」
「マティルダと婚約関係にありながら、シエナ・レデュラと親密にしていたとな」
父のその言葉に大きく体が跳ねた。
やましいことがあったのだと自分でわかっているからかもしれない。
マティルダが何も言ってこないことをいいことに、学園にいる間は周りを気にせずにシエナと共にいた。
『ローリー殿下はマティルダ様を放置して見向きもせずにシエナ様とばかりいた』
そう書かれている書類を見て、裏切られたような気分だった。
「それにそのドレス……どう言い訳するのだ」
「え……?」
「マティルダはお前のエスコートなく一人で扉から入り、お前はわざわざオーダーで作ったドレスをその令嬢に着せて、自分の誕生日パーティーで手を組みながら長い時間、共に過ごしていたそうではないか!マティルダと婚約関係にあるにも関わらず、それを会場にいる皆が目撃しているんだぞっ!?」
父の怒号にローリーは呆然としていた。
こうして自分の行動を言葉として聞くと、悪いのはどちらなのか……。
皆に自分がどう見えていたのかを知り、全身から嫌な汗が吹き出していく。




