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数時間の休憩を挟んでから二部がはじまる。
シエナを連れて父と母の元へと向かう途中に、いつもと違う景色に気づく。
立ち止まって辺りを見渡してみるが辺りは薄暗く、不気味に思えた。
「なにか、おかしくないか?」
「たしかに。いつもこの時間には城は明るいはずなのに、今日は暗いままですね」
「ああ……」
ローリーは窓の外を見た。
いつもはギラギラと輝いている美しい窓からの景色も今日は黒々として闇に覆われている。
(……なんだ?)
シエナとこの景色を見るのが好きだったが、今日はそれが見えないことが不満だった。
「どうしたのでしょう?あの景色、お気に入りだったのに……」
「シエナは心配することはない。あとでどうにかする」
「よかった!城から見るキラキラの景色、素敵ですもの!」
「そうだな。シエナの言う通りだ」
廊下を進んでいくたびに暗闇に吸い込まれていくような感覚があった。
部屋に座って温かい紅茶を飲みながら、父と母が部屋に来るのを待っていた。
その間もどんどんと部屋は暗くなっていく。
いつも点灯するはずのライトも今日は動かない。
天井を見上げているとシエナがローリーの肩を指でちょんちょんとつつく。
彼女に視線を向けると、両手から光の球体が現れて部屋を明るく照らしていた。
「さすがシエナだ。美しい光だな」
「えへへ、ありがとうございます」
「今、光魔法を鍛えるために講師と頑張っているのだと聞いたが順調か?」
「えっと……それは」
そう問いかけるとシエナは表情を曇らせた。
光魔法を極めれば、いずれ癒しの魔法を使うことができる。
城や教会に城の守り神として祭り上げられている『女神ブルカリック』は元は光魔法が使えた女性だったと言われていた。
シエナは王家から派遣される魔法講師と魔法の力を高めているはずだった。
この国の貴族達は国のため、民のために魔法を使う義務がある。
シエナの魔法は前例が少ないため、城の特別な講師達に指導を受けているはずだった。
「学園であんなことがあり続けたせいか、あまり気分が進まなくて……」
「だが、光魔法は……!」
「ローリー殿下、大丈夫ですよ!今日でマティルダ様もいなくなったし、ちゃんと頑張ろうかなって思っていたんです!それまで食欲もなくてずっと苦しかったから仕方なかったんですよ」
「ふむ、そうか……」
シエナの言うことに納得していた。
しかしまだ癒し魔法を使えなくても、何にでも一生懸命なシエナならば、厳しい訓練も乗り越えて国のために役に立ってくれるだろうと思っていた。
(……国にとってシエナの力は大いに役に立つ。父上と母上も納得してくれるはずだ)
美しい光をシエナと肩を寄せて見つめていた。
自分達の未来もこの光のように輝いてくれる……そう思っていた。
そんな時、乱暴な足音が聞こえてきて二人で何事かと立ち上がった時だった。
勢いよく扉が開いたことに肩を揺らした。
慌てた様子で部屋に入ってきたのはローリーの父と母、ブルカリック王国の国王と王妃だった。
「父上、母上、お知らせしたいことが……!」
「──ローリー、これはどういうことか説明しろ!」
「え……?」
「マティルダを国外追放したなんて、そんなの嘘よね!?嘘だと言って頂戴ッ!」
そこまで伝わっているのなら話が早いと、ローリーは「そうです」と言って頷いて、マティルダを追放した経緯を話そうとした時だった。
突然、胸ぐらを掴まれたローリーは何事かと声を上げた。
「父上、何をするんです!?」
「自分が何をしたかわかっているのか!?ガルボルグ公爵に何と説明するのだ!?」




