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そしてライボルトはマティルダについて気になることがあると話してくれた。
それは魔法訓練として父が呼んだ魔法講師と不貞行為を働いているかもしれないというものだった。
ローリーはその事実に衝撃を受けた。
(あのマティルダが不貞行為……?マティルダは俺のことが好きではなかったのか?では何故、シエナを虐げるような真似を?)
シエナの話と辻褄が合わないような気がしていた。
その部分を疑問に思ったが、今度はあれだけローリーの気を引こうとしていたくせに、裏では男を邸に連れ込んで平気で不貞行為を働くマティルダを軽蔑していた。
それが背が高く仮面をつけていて、全く口を聞かない不気味な男だそうだ。
魔法を教わるという口実で、森に行ったり、色々な場所に出かけながら密会を繰り返しているらしい。
(信じられない……なんて女だ)
ライボルトの話を聞けば聞くほどに何故か違った意味で胸が苦しくなった。
あれだけ笑顔を見せて媚を売っていたくせに、マティルダはただ『王妃』の地位が欲しかっただけなのだと気づいてしまったからだ。
(この俺を利用するだけ利用して……っ!)
更にシエナは「ローリー殿下やライボルト様の立場が悪くなると思って言えなくて」と、自分がこれだけ追い込まれているにも関わらず、こちらに配慮まで見せている。
どちらを選ぶか……明白だろう。
「シエナが学園を休む必要はない」
「でも私、辛くて耐えられそうにないんです」
「こうなったら諸悪の根源を排除しなければ……。皆に協力してもらおう」
「そ、そんなことをしたらマティルダ様に何をされるか!それにローリー殿下だって……」
「大丈夫だ。二度とシエナの前に現れないようにすればいい。シエナは何も心配することはない」
ライボルトとシエナの証言があれば十分だと思った。
それよりもシエナには泣き顔ではなく笑顔でいて欲しい。
ローリーの頭はそのことでいっぱいになっていた。
シエナの精神状態を考えて実行はローリーの誕生日になった。
一部と二部で別れており、一部は貴族の令息や令嬢達しかいない場で行われる。
パーティーの一部はローリーが仕切ることになり、父や母も口を出すことはできない。
しかし一番の理由はローリーのシエナへの思いが正当化できて、正々堂々とシエナとの関係を公にできるという喜びが大きかった。
婚約は並大抵のことでは破棄されることはない。
しかし、王太子の婚約者でありながらシエナに行った数々の愚行と不貞行為の証拠が揃っていれば、婚約を解消するには十分すぎるとローリーは思っていた。
(マティルダ……待っていろ)
パーティーに向けて、ローリーはシエナにドレスをプレゼントした。
ドレスを見てキラキラと瞳を輝かせて嬉しそうなシエナを見るたびに、ローリーの心は弾んでいく。
ふと、マティルダにドレスをプレゼントしたことがあっただろうかと考えたが執事に任せきりだったため、こうして女性にプレゼントを贈る楽しさを知ったのは初めてだった。
笑顔のシエナを見るとこちらまで幸せな気持ちになった。
もしかしてマティルダも……そう思ったが考えるのをやめた。
幼い頃からこだわりが強いマティルダには何を選んでも無駄だと思っていた。
そして誕生日の当日、マティルダをガルボルグ邸に迎えにいくことはなかった。
ローリーの迎えを待っているのか、マティルダは全く会場にこなかった。
しかしライボルトによれば、侍女達とパーティーに行く準備はしていたそうだ。
ガルボルグ公爵も今は不満に思うだろうが、理由を聞けば納得するだろう。




