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そして『マティルダがそんなことをするはずない』との一点張りだった。
周囲に聞いてみると、マティルダは最近、ガルボルグ公爵やライボルトの代わりに毎日城に通っては城下町に電気を送り、この街に必要な全てを賄っているらしい。
(だからこそ余裕の顔ができるのか。父上と母上は頼りにならない。俺たちでなんとかしなければ)
加害者であるマティルダが学園で伸び伸びと暮らして、被害者であるシエナが泣いて暮らすことが許せなかった。
そして自分がシエナに恋心を抱いていることを自覚していた。
できるならば愛していないマティルダよりも、自分が愛することができるシエナと結婚したい。
そう思うのは自然なことだろう。
そして、そのチャンスが巡ってきたのだと思った。
(シエナと添い遂げたい……!光魔法は国にとって役に立つはずだ)
ローリーの意思は固かった。
次の日、シエナの意思を確認するために学園で彼女を呼び出した。
「俺はシエナが気になって仕方がない。今まで色褪せていた世界が光に照らされるようにして明るくなった。こんな気持ちになったのは初めてなんだ」
「……ローリー殿下」
「シエナは俺のことを……どう思っている?」
「…………」
「シエナ、お願いだ。教えてくれ」
「私も、ローリー殿下と同じです」
「本当か!?」
「ですが、私は……ローリー殿下に相応しくありませんから」
「そんなことない!シエナは、シエナは俺にとって特別な女性なんだ……!」
ローリーは感極まってシエナを抱きしめた。
恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めるシエナを見て、すぐに手を離す。
今まで何があっても冷静に対処していた自分がこんなにも心揺れ動かされる存在に出会えたことに感謝していた。
学園ではシエナとの仲も深めながら裏で動いていた。
ライボルトを含めて他の令息達もシエナの側にいることを選んだ。
(卒業パーティー辺りで、マティルダの罪を暴露しよう。そのためには何ができるだろうか。まずはシエナをあの女の脅威から守りつつ、証拠を掴んでいかなければ……)
そう思っていたが、シエナからある相談をうける。
「私……暫く学園を休もうかと思っているんです」
「シエナ、それは一体どういうことだ?」
「ローリー殿下に迷惑をかけたくないんですし、それに……ううん、なんでもありません」
「待ってくれ、シエナ……!」
そう言って去ろうとするシエナの手を取り引き止めた。
彼女の瞳には涙がいっぱい溜まっていた。
その姿を見て胸が締めつけられる思いがした。
「何か訳があるなら話してくれ……!俺を頼って欲しい!」
「……っ」
「シエナの力になりたいと言っただろう?」
シエナは手のひらで顔を押さえて肩を揺らしていた。
彼女を悲しませるものは何であろうと許さない。
そんな気持ちから怒りが込み上げてくる。
「マティルダ様だけではないんです。私、本当は……っ」
シエナから聞いたのは信じられない話だった。
だがそれと同じように「やはりか」と思った。
内容はマティルダが他の令嬢達を使い、ローリー達の見えない場所でシエナに嫌がらせをしてくるというものだった。
最近、ローリー達がシエナと共にいることが多いため、マティルダは表立って攻撃できなくなっていたのだろう。
涙声でマティルダの悪事を話すシエナが可哀想で仕方なく思っていた。
(俺の婚約者でいるために、こんな卑劣なやり方をするなんて許せない)
ローリーはグッと手を握って怒りを堪えていた。
昔のマティルダならばやるだろうが、今は善人を装っている。
それなのに、こうして陰では気に入らない人間を踏み躙っているのだ。
ライボルト達に相談すると皆、シエナを思いマティルダを排除するという話になった。




