32
ホワイトゴールドの髪とピンクの瞳、何より珍しい光魔法を使うということで彼女は注目の的だった。
そんなシエナとの出会いは令息達に面白半分で揶揄われているところを助けたことがキッカケだった。
そこから彼女との仲は自然と深まっていった。
努力家で素直で笑顔が可愛くて何より優しいシエナはローリーに光を与えてくれた。
そしてライボルト含めて将来のローリーの側近候補達にも慕われていく。
そんなシエナが自慢だった。
しかし学園に入学して暫く経った頃、生徒会に入った。
ここでも求められるのは王太子としての振る舞いだった。
虚無感を感じていたが、それをシエナが癒してくれる。
シエナの「羨ましいです」という言葉に一緒に生徒会に誘うと彼女は頷いた。
シエナと共にいるだけで不思議なことに毎日が充実し始めたのだ。
そんな時、あるトラブルが起こる
生徒会室にこないシエナを探しに教室に向かうと泣きながら自分の机の前に立っている。
そんなシエナを見たローリーは声をかけた。
「どうしたんだ、シエナ」
「なんでもないんです……!」
「そんな訳ないだろう?何を隠しているんだ?」
「あっ、ローリー殿下!」
「なんだ、これは……」
「これは……」
シエナの前には水浸しになったペンケースや教科書があった。
悲しげな彼女を放っておくことなんてできなかった。
「一体どういうことだ?」
「なんでもありませんから」
「シエナ、俺にはなんでも相談してくれと言ったろう?力になりたいんだ」
「ローリー殿下、実は……」
シエナの話を聞いて驚愕していた。
マティルダがシエナを虐げているという事実は信じ難いものだった。
最近のマティルダといえば令嬢達とのんびりお茶を飲んだり談笑している姿しか見なかったからだ。
(まさかあのマティルダが……?)
以前ならば分からなかったが、最近は無害そのものだ。
少なくともローリーにはそう見えた。
最初は疑ったがシエナが嘘をついているとも思えない。
そしてシエナを虐げる理由を聞いて更にローリーは驚くことになる。
「マティルダ様は、私がローリー殿下によくしてもらっているのが気に入らないんだわ」
「……なんだと?」
「ローリー殿下に近づかないで、と何度か警告を受けたんです。だけど、私……っ」
その言葉を聞いて勝手に体が動いた。
気付いた時にはシエナを抱きしめていた。
「シエナ、俺のせいで苦しませてすまない」
「ローリー、殿下……」
「俺がシエナを守る。だから安心してくれ」
大粒の涙をこぼすシエナを放っておくことなどできなかった。
それにマティルダの媚びるような態度は今も続いている。
善人なふりをして、こうして影では弱者を虐げていることに嫌悪感が込み上げてくる。
シエナの水浸しになったペンケースや教科書から魔法で水分を抜き取り元に戻すと、シエナは心底嬉しそうに治ったものを抱きしめている。
男爵家という立場と両親に迷惑をかけたくないというシエナの言葉と、頭を下げて御礼を言う慎ましい姿にローリーは感動していた。
ローリーはライボルト達を集めて、今日あったことを話した。
一番、大きな反応を返したのはライボルトだった。
最近、公爵邸でもマティルダは好き放題しているそうだ。
それも侍女や屋敷で働くもの達を巻き込んでいるらしい。
それを聞いてますますシエナの言葉の信憑性が増していく。
(一刻も早く、この事態を解決せねば……!)
卑劣なやり方でシエナを追い詰めていくマティルダに怒りが込み上げてくる。
父や母に訴えかけてみてもローリーの話を信じようとしない。




