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強引かと思いきや、素直な反応を見せるベンジャミンに最近は振り回されっぱなしである。
先程まで唇が触れていた手の甲が熱く感じた。
初めは全く意識していなかったが、ベンジャミンと一緒に暮らし始めてからというもの、彼の優しさに絆されつつある。
これが恋なのかはわからないが、マティルダが納得するような形でと言ったからか、ベンジャミンとは〝夫婦〟という形を取っている。
(この世界でこんな風に素敵な旦那さんができるなんて思いもしなかったわ)
何よりベンジャミンの顔が良すぎて目の保養である
そもそも眉目秀麗でなんでも魔法が使えて、ある意味お金持ちで、何故だかわからないが自分だけを真っ直ぐに愛してくれる男性に迫られれば誰だって嫌な気持ちはしないだろう。
ベンジャミンは立ち上がり、隣の部屋に移動していつもの格好……執事のような燕尾服に着替えて黒いウサギの仮面をつけて去って行った。
とても目立ちそうではあるが、実際には影が薄くなるように調整しているらしく、認識されづらくしていると言っていた。
「認識されづらくって、どういうことでしょうか」
「まずは闇魔法を使うんだけど水魔法と風魔法を使えるともっと楽かもしれないね。本当は光魔法を使えたら便利だけど僕は無理だから」
「???」
ベンジャミンの説明を聞いたとしても全くわからない。
何個かの魔法を掛け合わせて、高度な調整によって成り立つものであることがわかる。
自分がやろうと考えるだけで頭が爆発してしまいそうになるため、ベンジャミンの使う魔法については考えることをやめることにしている。
マティルダは窓を開けて空中を歩いていくベンジャミンに手を振っていた。
自然に囲まれた塔の上で、ベンジャミンは空中を歩けるため自由に出入りできるものの、マティルダはここに来てから一度も外に出たことはない。
(なにも不自由はないからいいんだけどね……)
この一カ月、何度か外に出ようとしたが、そのことがバレる度に恐ろしい顔をしているベンジャミンに家に戻されるということが何度も起こる。
そして最終手段とでも言うように次の日に住んでいたはずの家が高い高い塔になっていたのだ。
朝起きてカーテンを開くと一面に青空が広がっていた時は状況がわからずに五分くらいは動けずにいた。
吹き込む冷たい風にマティルダが何が起こったかわからずに固まっていると、部屋の中に入ってきたベンジャミンが笑顔でこう言った。
「塔になったんだよ」
「え゛!?!?」
ベンジャミンと過ごしてからは毎日必ず「え!?」「なんでですか!?」と、言っているような気がしていた。
まさか一晩で住んでいた場所が塔になってしまうとは思わなかった。
(昨日、寝ている時に工事の音はしなかったよね?まさか魔法を使ってこんなことができるなんて、ファンタジー……)
ここが魔法を使えるファンタジーの世界だということも忘れて感心していた。
「マティルダが何度も逃げようとするから仕方なく……ね?」
「わ、わたくし逃げたりなんかしません!ただ少し気分転換に外に出ようかと思っただけです!」
「マティルダ、外は危ないよ。アイツらに見つかったらどうするの?」
「……アイツら?」
「ブルカリック王国の奴らだよ。マティルダを取り戻しにくるかもしれない」
「わたくしを取り戻しに来るわけないですから!だから外に……っ」
「もう外に行くなんて絶対に言わないで」
「ベンジャミン様」
「マティルダは僕が守るから……」
仄暗い表情でこちらに迫ってくるベンジャミンにマティルダは首がもげるほどに縦に動かした。




