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次の日からベンジャミンとの新しい暮らしが始まった。
窓から外を見渡してみると一面、森に囲まれていることがわかる。
朝は鳥の囀りで目が覚めて、夜は空に一面の星が瞬いている。
ガルボルグ公爵邸で暮らしていた時よりも、のんびりとした毎日にマティルダの頬は緩みっぱなしである。
何より日当たりのいいベッドで昼寝をすることが至福の時間だった。
今まで貴族の令嬢として常に人に囲まれていたマティルダにとって、人目を気にせずにのんびりとできることが、こんなにも幸せだと思い出すことができた。
悪役令嬢に転生する前の働きっぱなしの生活とも令嬢として緊張感があって居心地の悪い毎日とも違う。
まさに理想的な生活にマティルダの表情筋は緩みっぱなしである。
(あぁ…………幸せ)
仕事終わりの一杯に匹敵する幸せがずっと続いているような感覚だった。
ベンジャミンと一緒に暮らし始めて、あっという間に一ヶ月の月日が流れた。
最初は遠慮気味ではあったが、だんだんとベンジャミンに甘やかされることにすっかり慣れてしまった。
我ながら適応力の高さに驚いていた。
最初は上手くやっていけるのかドキドキして緊張していたマティルダだったが、三日ほどはベンジャミンに怪我が治るまで動くのを禁止されていたため、彼に看病されるがまま遠慮気味に過ごしていた。
マティルダの世話を全てしているベンジャミンは何故かずっと嬉しそうであった。
しかし最初は寝て食べてと幸せだったが、三日も経てば贅沢すぎる生活も次第に飽きてしまい、怪我が治ったタイミングでベンジャミンの手伝いを始めた。
最初は「マティルダは座っていてくれるだけでいい」と言われたが唯一ベンジャミンが本と睨めっこしながら作っていた料理を次の日からマティルダが作ることになった。
貴族の令嬢として暮らしていたマティルダだが、ガルボルグ公爵達がいない間を見計らって、こっそりとお菓子を作っていたり一人暮らし歴が長いからか無駄に凝った料理を作れるようになっている。
その知識は引き継いでいるので、この世界でもなんとか似た調味料を見つけては懐かしい味を探して食べていた。
公爵家ではシェフの作る高級な食材を作った上品な料理を食べていたが、手作りの味は何ものにも変え難い温かさがある。
食材は欲しいものがあるとベンジャミンが大量に持ってきてくれた。
毎日一緒にいるベンジャミンが何をしてお金を稼いでいるのか気になっていたマティルダだったが、問いかけるとその秘密を明かしてくれた。
いつも扉が閉まりっぱなしのとある部屋には金貨が端から端まで山積みになっていた。
マティルダはこれでもかと口をあんぐりと開けながら金貨を指さし、ベンジャミンを見つめていた。
「な、なんでこんなに金貨が……!?」
「これだけあっても使い道がなかったから、助かったよ」
「いやいやいやいやいや!そうでなくて、どうしてこんなに金貨が大量にあるのですか!?」
マティルダの質問にベンジャミンは当たり前のように答えた。
「探していると、いつの間にか国を救っていることがよくあって……それで謝礼をもらうんだけど、使わないから溜まってくんだ!」
「????」
「ブルカリック王国も何度か力を使ったような気がするけど……」
マティルダはその言葉を聞いてあることを思い出していた。
ベンジャミンは国のピンチにフラリとやってきてドラゴンを倒したり旱魃時に雨を降らせたりしていることを。
国から謝礼はもらったり貰わなかったりと、まちまちだそうだが、それでも一生豪遊できるどころか無理をして使っても使いきれない量の金がこの部屋に乱雑に置かれている。




