第1話
拝啓、『天音 鈴』様。あなたが女性に対して、どれだけ上手に接しているのか、よぉ〜〜く分かりました。
わたくしめこと『塩原 詩』の、女性と接する事のレベルの低さ、及び免疫の無さを、嫌という程に痛感しております。
「な、なんか反応したらどうなの!? せっかく話してるんだから!」
10月半ばぁ、午後1時ジャストぉ、学校の広場にて……『ソフィア・ドルチェ』という女性の尻にしかれています――。
「いやっ、あの……なんというか困惑してしまいまして、えぇ。言葉も出ませんでしたのじゃ」
音山田高校には、校舎と校舎の間に人がくつろげる大きな空間が有り、俺は今そこで椅子に座りうつむいているのじゃ。
余談じゃが、ざっと15平方メートル(詳しい数字は分からん)程あるこの場所には、ペガサスの彫刻があったり虹色のステンドガラスの床があったりとちょっとオシャレ。
校舎との差があるから、若干浮いてなくもないけど、芸術や創造には決まりがないのでな、俺はそれでも素敵だと思う。
「はぁー?? なっ、なんで困惑したのっ」
呑気にそんな事を思っている間にも、彼女の問答は止まらない。
色白でスラっとしたモデル体型を持つソフィアさんは、腕組み、威圧感のある言葉により、ますますその強さと凄みを見せる。
「なんで……うーん……い、威圧感が凄くて」
ずっと下を向く俺こと塩原 詩。出会いとは全く真逆の関係になっていて、笑うしかない。
「っっえっ! い、威圧感ヤバかった!? ご、ごめんっ。そっ、そのそんなつもりゴニョゴニョゴニョゴニョ……」
ん……? なんじゃか急に、顔を赤らめ始めたの。しかも、最後ら辺めぇちゃめちゃ声小さいし。う〜ん、聞き取れん。
「アタシ、168あるから、確かに怖いよね……でもゴニョゴニョ……」
そんなに身長高いのか! 凄いのう……脚の長い女性は、スラっとキレイに見えて結構好き。てか、また聞き取れん所が……。
「だからっ、その……うっ、詩君の事嫌いになった訳じゃなくて……むしろそのゴニョゴニョゴニョゴニョ……」
ダメだ。全く聞き取れないから、なんで嫌いとかの話になってるのかさっぱりじゃ。
ほんとなんでそんな小声で喋る、さっきまでの勢いはどこに行ったのだ、ソフィアさん。
――すっごくうねうねしてる。すっごい内股。さっきまで、もはやがに股だったのに。
とんでもなく強そうな美少女が、なんかよく分からんけど、右手で口元を隠しながら、内股で顔を赤らめてる。
そして、ずっとうつむいてるヤンキー。
ナァニこの構図。訳分からなすぎて帰りたいんですけどっ☆
「あの……ソフィアさん、とりあえず通り名の事も含めて、頼みたい事ってのは一体?」
俺がそう言うと彼女は、はっ! いかんいかん! みたいな感じで顔ペシペシした。
こう見ると、出会った時のおっちょこちょいな所は、未だに持ってるんじゃな。そう思うと、なんだか少し安心したわい。
「あ、あぁ。実は最近……妙にな、アタシの家の周りで不審な事が起きるんだよ」
「不審な事?」
「そう。例えば、家に帰った時に、朝の時には無かったダンボールが玄関に有ったり」
「それはとても怖いのう」
「うん……他にも、買い物終わりの帰り道で、誰かに付けられてるような感じがしたり、玄関の前で見られる感じがあったり」
「それもまた怖い。ストーカーかもしれないの」
「そうなんだよ、アタシもその線があるかもって思って」
「だから……俺に頼み事を?」
「…………」
何故ここで顔を赤らめる。俺の言い方、そんなに恥ずかしい事なのかの。
「鈍感っ……」
「童顔? 俺は割と大人っぽいみたいなのじゃが」
「そ、それは鈴君の顔の事だろっ。なんでここで漫才しなきゃいけないんだ。夫婦漫才じゃないんだから……や、やだ! 夫婦だなんて!♡」
ずっ、ズコーー。ほっぺを手でスリスリして、恥ずかしがられても……。
全く、君の事が掴めないぜ☆
「ツッコミ役がボケてどうするのじゃ。とりあえず……その現象ってのは、具体的にいつ頃から起きたのじゃ?」
「っ…………6月頃」
「え、えぇー!? なんで今まで放って置いたのじゃ!? 君みたいな美人は、同一犯以外にも狙われるリスクがあるというのに……」
「…………」
なんかムスっとした顔してる。なんで?
はぁ……鈴が居てくれたら……「何故あんな顔なのじゃ!」って聞けるのに……。
「その間は、アタシの友達が一緒に帰ってくれたから大丈夫だったよ。それに、アタシ含めて3人は強いからね」
「そうなのか? だからずっと放っておいたと?」
「まぁ、そんな感じ。て言っても、別に完全に放置してた訳じゃないぜ。たまには3人で調べたりもしてたんだ、逆ストーキングしてね」
おぉ〜。今の女性は強いのう〜。感心する事ばかりじゃ。
「てことで、アタシの友達を今から紹介したいんだけど、良い?」
「ん? あ〜いいよ」
「『奏』ちゃん! 『弦』ちゃん! もう出てきていいよ!」
2回の指パッチン(1回目は失敗したが無かった事にしてる)をして、彫刻の後ろら辺から友達が登場してくる。
「なななななー!! ボクは『奏』! 女の子だけど、色々あってボクって言ってまーす! よろしくね! にぱ〜♪」
うわぁ〜〜〜、すっごく絡みたくない人出てきた〜〜。
なんかほっぺたを人差し指でむにゅってしながら、にぱ〜とか言って出てきた〜。
絡みたくないというより、絡んだら危なそうです。笑い声が「ななな」の人初めて見ました、天然記念物です。
――奏という人は茶髪のショートボブだけど、最近は男性でもそういう髪型をするから、女性と言われなければ間違いなくもっと困惑してたのじゃ。
……うおっ! てかよく見ると、あの人オッドアイだ! 凄いのじゃ……一体あの目はどうなっているのだ、気になる。
それにしても、顔は幼めの美少女系じゃが、ソフィアさんに触発されたのか、ギャルっぽい格好をしているの。
彼女と同じようにミニスカで、くるぶしくらいまでの短い、黒の靴下、黒の靴を履いている。上は指定制服か……。
ソフィアさんのスタイルが抜群だから、見劣りしてしまうかもしれないが、彼女も充分にモデル体型だの。
「妾は『弦』と言います。ちょっと緊張しているけど、よろしくです」
妾……話し方は普通じゃけど、一人称が独特……。
銀髪ロングで、センター分けをしておるな。んお、髪の内側は赤色か。オシャレさんじゃの。
そこに細長い赤のメガネを着けており、色白で、少々細い釣り目の美人系と来た。
こちらも、服装は指定制服。スカートは膝上だけど、2人よりも長め。
靴下も長くて、ふくらはぎの真ん中辺りまでじゃ。色は白、靴は黒じゃ。
3人の中では1番小さいというか……多分、そうじゃなくてもかなり小さい方の部類じゃの。
小さい女性も可愛らしくて良いと思うが、気にする人は気にするというからの、小さいという考えは捨てておこう。
「俺、『塩原 詩』と言います。よろしくお願いしますなのじゃ」
とりあえず、立ち上がって挨拶をした。
「2人共、凄く可愛いでしょ! 本当に優しくて良い人達だから、仲良くしてあげてほしいなっ、詩」
ウキウキした顔で紹介するのじゃなぁ、この2人の事がそんなに好きなんだのぉ。
「この人がソフィアちゃんの言ってた……ふむふむ、なるほど! いいねぇいいねぇ、趣味は何?」
奏さんとやらは、右腕でソフィアさんを、左手で弦さんに絡みつき引っ張ってきた。
すっごい興味しんしんな顔で。
「物語が好きで、色んな媒体の物を漁っているのじゃ。男性向けも女性向けも、ジャンルも問わずに摂取するのが好きじゃよ」
「へぇー!! それめっちゃいーじゃん! いーじゃん! ボクはお絵描きするのが好きだよ! 今度、塩原君が好きな映画とか教えてよ、なんか描くから!」
「えっ、いいのか? それは嬉しいぞ!」
ノリの独特さはあるけど、優しい人だな。ソフィアさん、良い友を持ったの。
「なななななー! モッチモチ! ソッフィーと一緒に描くから楽しみにしててね♪」
「えっ、あ、アタシも!?」
びっくりした顔で奏さんを見るソフィアさん、からの俺にうるうるした顔を見せてくる。
どういう顔なんじゃ……何故そんな顔を……自分の知識と経験の無さに意気地無さを感じるぞ……。
「頑張って描いてくれたら、どんな絵でも嬉しい。俺はそう思うのじゃ、だからいつでも待ってるぞ、ソフィアさん」
「……そ、そうだな! 奏ちゃん、良い絵を描こうね! それに弦ちゃんも! いっぱい! うんっ!」
「なーなー! そうこなくっちゃねーーー……おっと、大事な話をし忘れそうになったね」
2人の腕に抱きついたまま、両手を上げた奏さんは、急に冷静さを取り戻した。
「弦ちゃん、もしかしてボクが冷静になるまで待ってた?」
弦さんを見る奏さん。
「まっ、まぁ……。ちょっと迷ったけど、奏とソフィアの邪魔したくなかったし……」
「なぁんて良い子なのっ! ウリっ! ウリっ!」
彼女は、弦さんに抱きつき、ほっぺをスリスリする。弦さんは『んんっ……』という声を出して、それを受け入れていた。
「あれっ、でも弦ちゃん。なんかいつもより静かじゃない?」
一旦離れた奏さんは、おとぼけた顔をして聞く。
「妾は、3次元に免疫が無いから……」
奏さんから目をそらし、俺から見て右下に視線を移した。
――3次元? どゆこと?
「それはどういう事じゃ?」
「えっ、えっと……な、なんでもないです……それよりも、また話を忘れそうになってるし、本題に入りましょう」
「お、そうじゃったな、すまぬ」
3次元という言葉は、恐らく数学で使うそれではなく、サブカル的な意味な気がする。
じゃが……どういう意味だったのか忘れてしまったので、とりあえず今は本題の事に集中せねばな。
「だからその、詩……アタシの家にっ」
「家?」
「い、いっ……」
「うん」
「家に来て、ふ、不審な事が何か見てほしい!」
「分かった、手伝う」
「えっ、そ、そんな即答……」
ソフィアさんのその顔には、バカな俺にも分かる程、色々な感情が混ざっていた。そう、複雑に。
不安や、焦り、これからへの期待感、そして……彼女の心の成長への一歩。
初めて会った時、もちろん、ほんの数分だけじゃったが、俺は彼女から何かを感じ取った。
心のどこかで、何かに、囚われている。
その心の中に、外への扉がある。だけど、そこには鍵付きの錠がかけられている。ソフィアさんは、その開け方を知らない。
「言ったじゃろ……俺の名前は『塩原 詩』だ、何かあったら声を掛けてくれって」
だから俺は、目の前にいる女性に、その開け方を教えるんじゃ。
俺もまた、まだ何も知らない彼女の事を……教えて貰う為にも。
だから俺は、彼女を放っておかない。
「…………っ! ありがとう詩! 本当にありがとう!」
久々に見たな……そんな、安心した笑顔は。実は、初めて会ったあの日以外にも、5月末までに彼女と何回か話している。
じゃが、あんな顔を見たのは、久しぶりじゃ。
「キャー! 今のはカッコよかったねー! ボクもソッフィーに今度言ってみよ♪」
「ちょ、奏ちゃんいじわる言わないでよ〜!」
「妾も言ってみようかな……」
「弦ちゃんまで〜」
和気あいあいと話す3人からは、全くもって他人を貶めてやろうという気持ちが見られない。
「仲良いんじゃのう、3人共」
「あっ、もしかして羨ましくなった? なな! 見せつけといてあれだけど、ここは男子禁制だからダメ〜ごめんね塩原君!」
いじわるそうに微笑む奏さん。
「羨ましがる塩原さん……The男子って感じで、可愛いですね……。大人っぽいイケメンなのに、のじゃのじゃ言ってるのもギャップで良き……じゅるっ」
なんか弦さんからじゅるって聞こえたんですけど気のせいですかね。
なんとなく逃げないといけない気が☆
「お〜い! 詩〜! ソフィアさ〜ん!」
ん? この声は……鈴!?
「はっ、はっ。ぷはぁ〜間に合って良かった、遅れてごめんよ〜詩」
走ってきたのか、少し首元に少し汗が浮き上がっている。と思ったら、中のシャツをパタパタさせた。
そしてそのまんま首元の汗を拭う彼、あ……なんかなんとなく腹チラしそう。
「なんで鈴は、俺達の居場所が分かったのじゃ?」
腹チラを女子達に見せぬ為に、とっさに立ち塞がる。なんとなく、親友のそういうのを見るのは俺だけで良い気が。
ん……てかなんか、もう1人おらんか? え、だれ。女子? 髪長いの……。
「いやさ、そこの律君に、日直の仕事を手伝って貰ってたら、たまたま詩が見えてさ! だから来た! 何してるの?」
り、律……君? 男子じゃったのか。確かに、鈴も髪がもう少し長ければ女子に見えなくもないが、こんなミラクル世の中にあるんじゃなぁ。
「そうじゃったのか、すまなかったの。いや実は、色々と相談に乗ってたというか何というか。そういえば、律君とやらは何の為に来たのじゃ?」
「……僕は塩原君とクラスは違うが、天音によく話を聞いていた。だから気になっていたんだ。話の通り、面白そうな人なんだね」
クールな微笑というかなんというか……たたずまいがスタイリッシュでカッコいいのぉ。
「自己紹介しよう、僕は『歌代 律』だ。よろしく」
紹介の仕方もクールじゃの、隣の鈴との対比が凄い。
鈴は167しかないが、律君は多分175付近はある。童顔な鈴に対して、大人っぽい目をしている。
というか、言ってしまえば、幼い女子と大人っぽい女子が並んでいるで通じてもおかしくない。
「うひゃー!! イケメン勢揃いとかここは天国ですか! ななな! 笑いが止まらない! 紫色のポニーテール前髪ピン止め美男子とか熱すぎる!」
奏さんのテンションがおかしくなってる。怖いよう。
「うるさい女は嫌いだ……少し静かにしてろ」
わぁお、さすがイケメン。言う事もきっぱりしてる。じゃが、奏さんも女の子だし、そうキツく言われたら傷付くの――。
「がはぁ!! キツい当たりなのも、さっ、最高なのですがっっ! た、たまりゃんんん!」
よし、放っておこう。
「はは……なんか色々とカオスだね。俺ちょい困惑」
空気が読めて、優しさのあるあの鈴ですら困惑させるとは、ツワモノじゃなぁ奏さん。
とりあえず、明るいドMは扱いに困るというから、一旦置いておくとして。
「う、うんとさ……色々と脱線しちゃったけど、アタシからの話はこれで終わってもいいかな?」
「そうじゃの。本当に色々と脱線してしまったが、とりあえず放課後また集まるとしよう」
結局、通り名の意味も、ソフィアさんのこの変わりぶりも、事件の事も、俺に何故こんな事を頼んできたのかも、色んな事が謎だらけ。
じゃが彼女含め、3人と一緒に行動していけば、何か分かるかもしれんの。
「お! なんかこの人達とやるの? あってか、この人達とどういう関係なの?」
そういえば、鈴はまだ知らなかったの、目の前にいるのがソフィアだって。
「目の前にいるこのブロンド髪の女の子、『ソフィア・ドルチェ』じゃよ」
「ソフィアだぜ! 鈴君!」
一瞬、時が止まる。
「…………んえええええ!!! まじ!? ソフィアさんなの!? やばぁっ、めっちゃ変わってるじゃん! うわぁぁ、凄いなぁ久しぶりだね!」
予想通りのオーバーリアクションな驚き、嫌な感じがしないのは、鈴の人柄の表れじゃの。
「あっ、そういえば」
と、一瞬盛り上がった所で、弦さんの声が。
「そろそろお昼休み終わっちゃいますよ」
「「「「……………………」」」」
キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン。
「「「「あぁぁぁぁ!!!!」」」」
――個性の強いロックサウンドが、変則的なプログレッシブで混ざり合っていく。
トリオで始まったボーイ・ミーツ・ガールは、やがて数を移り変えていく――。
○●○●
「あっ! そうだそうだー! ボク達、ちょっと外で見張ってるから、ソッフィーと塩原君は、中で2人っっっきりでいてね!」
えっ?? なぜ?? ちょ、なんかマジで皆出ていこうとするのじゃが。
「ま、待ちなよ奏ちゃん! アタシそこまで頼んでな――」
「いいからいいから〜♪」
止めようと掴みかかるソフィアさんを、奏さんが振りほどく。
「ほんじゃ、塩原君! ソッフィーの事……よろしく!」
ガタンッ!
扉が閉まった……。
「………………どうする、ソフィアさん」
「…………う、詩……」
真っ赤な顔のソフィアさん。
「はい……」
「詩の隣……座ってもいいか?」