もしも菜の花がカビ色だったら
もしも菜の花がカビ色だったら
こんなに春に似合う花だっただろうか
もしもカビが菜の花色だったら
私は腐ったものを春の珍味と錯覚して口に入れただろうか
もしかして菜の花がカビ色でも
人はそれを春らしい風景だと愛でたのだろうか
もしかしてカビが菜の花色でも
人はそれを見てこの化け物のような食べ物はもう恐ろしいと震え上がったのだろうか
カビは実はとても美しい
夢の国のような華々しい色をしている
緑や白や赤や
ふわふわとしたパウダーを幻想のように飛ばして
私に可哀想と思わせる
こんなに美しい色をしているのに
一体誰が
これを毒々しいと決めたのか
一体どこの誰が
カビさんをこんな不遇な目に遭わせているのか
可哀想だと思った私は
カビの生えた蜜柑を口にする
その手が止まる
誰かが止めたのである
私の中にいる誰かが警告する
それは食べてはいけないものなのだと
私の中から私を守る
一体私とは何物なのか
いちめんの菜の花が私の目の中に広がっている
粉々しい風景に春風が吹いている
私はただ目を細める
私の中に息を潜めている誰かの気配を探っている




