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魔法学のすゝめ!  作者: 蒔 望輝
CHAPTER_01 魔法学は苦難の道のり ~don't through the thorny road~
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(09)身勝手な思い ~selfish~


「ふふ、どうだい? ボクの力――」


 ムーヴが放った砲弾による煙が収まっていく。

 近距離からの砲撃に、理学室にいる生徒はシュウの身を案じていた。

 しかし、煙が落ち着いたところでムーヴは首を(かし)げた。


「そんな……」


 シュウは無事だった。体に傷1つない。

 シュウの背後にも、砲弾の跡は一切無い。


 シュウの手の前には白い、六芒星の魔法陣――

 中心からは、煙が上がっている。

 魔法陣は、砲弾とその爆発のすべてを受け止めていた。


 シュウは、白く光る瞳でムーヴを見据える。


「な、なんだその魔法っ!」


 ムーヴは、警戒して廊下まで後ずさる。

 そして、地面の大きな瓦礫をいくつも魔法で持ち上げ、そのすべてをシュウに向かって放つ。

 シュウは、放たれた瓦礫すべてを白い魔法陣で受け止め、魔法陣ごと部屋の大きな窓に向かって受け流す。



 <きゃーっ!!>



 窓が割れる音で生徒たちは、また叫び声を上げる。

 瓦礫が外に放り出され、魔法陣は窓の外に浮かんで止まった。


 シュウは、叫び声よりも大きな声で叫んだ。


「全員乗れえぇーっ!」


 白い魔法陣はそのサイズを大きくし、その場の全員が余裕で乗れるまでに大きく広がった。

 場は静まり返り、生徒たちが窓の外の魔法陣を眺める。


「急げっ!」


 見慣れない魔法陣で乗れるのか心配な生徒たち――

 先生は先陣を切って魔法陣に飛び乗り、部屋の中に手を伸ばす。


「さあみんな、ひとりずつ来て!」


 先生の案内で生徒が1人1人乗り込んでいく。


「勝手なことしないでよ!」


 窓の外に集中していたシュウに向かい、ムーヴは再び瓦礫を放つ。放れた直後、その瓦礫は階段の方から飛んできた破片(・・)に弾かれた。


 シュウもムーヴも階段の方に目をやると、リンがロッドと魔法陣を構えて立っていた。


「リン!」


「シュウくん! だいじょうぶ?!」


「キミたちは……っ!」


 先生の落ち着いた案内で生徒全員が魔法陣に乗り込めた。


「先生! みんな! 落ちないように――」


「ちょっと、あなたは?!」


 シュウは、応えること無く魔法陣を校舎1階まで降ろす。全員が心配そうにシュウを見つめていたがすぐに見えなくなる。

 そして魔法陣が降りきったことを感じ、魔法を解いた。

 シュウの瞳は黒く戻り、反動で頭が回って体勢を崩す。


「シュウくん!」


「だい、じょうぶ……」


 頭を押さえながら、何とか持ちこたえる。

 意識も徐々にはっきりしてきた。

 ムーヴは、哀しいような悔しいような表情で一部始終を眺めていた。


「なんてことしてくれるんだ、せっかくのボクの計画を――」


「投降しなさい!」


 廊下のリンと反対側――

 エリスも現場に到着し、ロッドを構え、ムーヴに向ける。


「人質は無事なようね、観念するのよ」


「ふんっ……」


 ムーヴは3人に囲まれるも、観念することなく笑みを浮かべる。


「何がおかしいの?」


「学園一の魔法使いまで来てくれるなんて、嬉しくてさ」


「もういいわね。言いたいことは後にして」


「それに、人質ならキミたちがいるじゃないか!」


「あなたこの状況でよく――」


 ムーヴは人差し指で天井を強く指し、エリスを黙らせる。


「この学園の天井、壁、いたるところに爆弾を仕掛けてる。一斉に爆発させればボクも、キミたちも、学園もろともオシマイだね。ああ、それもいいかもなあ」


「それは、確かなの……?」


 エリスは、事実確認のためシュウとリンを交互に見やる。

 シュウは、ゆっくりと頷いた。


「変形痕が落ちてた。恐らく爆弾を作ったあとだろうって……」


「わたしの魔法でも確認したの」


「さあ分かっただろ? 自分たちが人質だって」


 エリスは、ロッドの構えは崩さずに警戒心を高める。


「人質が減ったのは残念だけど、君たちが来てくれたのは好都合だよ。ボクのお願いも通りやすくなる」


「このままだと、すぐに魔法軍が来るわよ」


「そしたらみんなで下敷きになるだけさ」


 シュウにも焦りが見える。

 ムーヴに一番近いのはシュウだ。

 エリスとリンでは、ムーヴまでの距離が遠すぎる。遠くから仕掛けても爆発を起こされる危険性が高い。

 シュウが魔法を使えていれば、あるいはとっくに捕まえられていたのかもしれない。

 しかし、魔法はまだまだ未熟だし、まだ気分も悪い。どうにかして素手で捕まえるしかなかった。

 とにかく、会話でもなんでも隙をつくる必要がある。それはエリスもリンも同感だった。


 エリスは会話を続ける。


「爆弾はロッドを変形させたのね」


「そうさ、それに時限式の≪衝撃魔術(ウェイトブレイカ)≫も仕掛けてある。時間を稼いだところでこの学園は終わりさ」


「ただのロッドから爆弾なんて、とても精密な魔法が必要だし、大量ともなればそれだけ大きな魔力がいる。そんなこと、とてもあなたのような一般(・・)生には――」


「また一般生(それ)か!」


 ムーヴは、突然激昂(げきこう)する。


 シュウはそのときを逃さなかった。

 ムーヴに向かって走り出し、一気に距離を詰める。


「反省しろ!」


 シュウは、拳をムーヴに振りかざす。

 だが、あと少しのところでムーヴは≪防壁≫を繰り出してきた。

 拳は≪防壁≫に思い切りぶつかり、(にぶ)い音が全身に鳴り響く。


「――ぃってえっぇぇっ!」


「どうしてそんなにボクの邪魔をする!」


 ムーヴはシュウから距離を取り、近くの瓦礫をガムシャラに放つ。


「間違ってるからに決まってるだろ!」


 ギリギリで瓦礫を避けながら、シュウは再びムーヴに距離を詰める。


「ボクのなにが間違ってるんだ!」


「やり方だっ!」


 再び殴りかかるが、当然のごとく≪防壁≫が行く手を阻む。

 シュウは、それを見越して≪防壁≫を掴み、体を宙に上げる。

 そのまま一回転してムーヴの上から襲い掛かった。


「ボクはなにも間違ってない!」


 ムーヴは自身の頭上にも≪防壁≫を繰り出すが、シュウはそれよりも早くムーヴの目の前に降り立つ。

 そして、すぐさまムーヴのお腹めがけて飛び込んだ――


「甘いよキミたち」


 シュウの眼前に、小さな白い球が2、3落ちてきた。


 シュウは、危険を感じて顔を腕で覆う。

 同時に、白い球が一斉に爆発する。


「――うぐっ!」


 爆発はシュウの体のいたるところに及び、爆風がシュウの体を吹き飛ばす。


「そんな! シュウくん!」


 リンは、倒れたシュウのもとに急いで駆け寄った。

 胸部から腹部にかけて制服の上着が破け、手で押さえている腹部のあたりは、シャツに血が滲んでいる。

 傷口付近に手をかざし≪治癒魔術(イルミナムレイカ)≫を施すが、リンの力ではあまり効果が期待できない。


「いい加減にしなさい!」


 すかさずエリスも加勢しようと走り出す。

 しかし、エリスにも白い球――ロッドを丸く変形させた爆弾(・・)が迫る。


「甘いんだよキミたち!」


 ≪防壁≫で白い球の爆発を防ぐも、ムーヴからは矢継ぎ早に白い球が放たれる。エリスは、その対処に精いっぱいで距離を詰めれずにいた。


 シュウは、上体を持ち上げる。


「どうしたの? だめだよ無理しちゃ」


「リン、頼みがある」


 エリスがムーヴの気を引いている間、リンに頼みごとを伝える。

 リンは、小さく頷いた。


「分かったけど、ホントに平気なの?」


「ああ、やれるだけやるさ」


 ムーヴの爆撃は続く。

 エリスは、防御しながらムーヴの声に耳を傾ける。


「こんぐらいしなきゃ世界はなにも変わらない! 上にいる奴らはボクたちの努力を、苦労を、ボクたち弱者のことをなにも知らない、分かってないんだ!」


「そんなことないわ、きっとあなたのことを見ている人だって――」


「見ているだけじゃないか!」


 今までより大きめの爆撃がエリスを襲う。

 体は後ろにのけ反りながら、爆撃をギリギリで防ぐ。


 そして、ムーヴの爆撃が止んだ。ムーヴにも疲れの色が見える。

 怒りか悲しさか、虚しさか――

 顔には涙が(こぼ)れている。


「後ろを振り返るだけでなにもしてくれない。どれだけ努力しても追いつけない。誰も、なにも分かってくれない……」


「働いたことはあるか?」


「え?」


 ムーヴが振り返ったその先、リンに助けられながらシュウは立ち上がる。≪治癒≫のおかげもあって血は止まっていた。でも、痛みは収まっていない。


 傷口を抑えながら、シュウは真っ直ぐムーヴを見据える。


「――ガキだからってコキ使われた挙げ句、お金も貰えなかったことはあるか?」


 フラフラになりながらリンから離れ、ムーヴに一歩ずつ近づく。

 ムーヴは、警戒して後ずさる。


「――やっとの思いで稼いだお金を怪しい金だと言われ、ボコボコに殴られながら軍人に奪われたことはあるか?」


 ムーヴから視線をそらさず、また一歩近づく。

 エリスとリンは、心配そうにシュウを見つめる。


「――姉の職場のストーカーはお偉い魔法使いだった。結局は名誉毀損で訴えられ、仕事もやめさせられた」


「き、キミはさっきから何を――」


「不幸自慢なら、いくらでもできるぞ」


 シュウはピタッと足を止め、ムーヴの顔を指差した。


「俺だけじゃない、もっと大変な思いをしている人がいっぱいいるんだ! それでもみんな必死に生きてんだ!」


「だからさっきからなにが言いたい!」


「お前がいくら立派な主張しようと、必死に生きてる他人(ひと)を傷つけていい理由にはならない!」


 両腕を大きく振りかぶる。

 野球の投球フォームを真似てみる。


「みんな力と勇気がないだけだ。だからボクが代わりに立ち上がった。ある程度の犠牲は必要だ!」


「違う、みんな自分のことで精一杯なんだ。お前のことなんて知ったこっちゃないし勝手に巻き込むな!」


「そんなはず……」


「それに、お前は分かってるのか? 自分のこと」


「ボクの、こと……?」


 息を大きく吸って、腕を下ろすと同時に左足を大きく上げる。


「な、なにを……」


「よーく思い出してみるんだ、お前がどうして魔法使いになろうと思ったのか――」


 あとは振り子のように足を振り下ろし、合わせて肩をぶん回す――


「これでも喰らってな!」


 シュウは、美術の先生から預かっていたトロフィーを、ムーヴに向かって全身全霊の力でぶん投げた。


「そんなの届くわけ無いだろ!」


 距離にも無理があるし、届いたところで威力は知れた。

 ムーヴは、投げられたトロフィーに向かって白い球を放つ。


「とどけえぇえ!」


 シュウは、全身全霊を込めて集中する。

 トロフィーを投げてからわずかの間で唱え、集中する。


 すると、トロフィーに白い球がぶつかりそうになった瞬間――

 トロフィーの前に、緑色に輝く≪相転魔術(ドメインドレイカ)≫の魔法陣が出現する。

 トロフィーは魔法陣の中に吸い込まれ、白い球は魔法陣にぶつかって爆発した。


 ムーヴは、状況を把握できなかった。


「おりゃぁああぁっ!」


 いつの間にかムーヴの頭のすぐ後ろにも≪相転≫の魔法陣が出現する。

 そしてシュウの叫び声と同時に、トロフィーは投げた勢いそのままに、魔法陣からムーヴの頭目掛けて飛び出した。


「ぬあっ!」


 ぶつかった、というより刺さったに近い。

 トロフィーがムーヴの頭に直撃し、ムーヴの体がよろける。


「――リン、頼む!」


「うん!」


 頼まれていた通り、シュウの足元に≪防壁≫と≪衝撃≫の魔法陣を張る。

 浮遊魔法の要領で横に飛び跳ね、ムーヴまで一気に距離を詰める。


「オマケだっ!」


 飛び跳ねた勢いそのままに、ムーヴ目掛けて拳をぶち込む。

 後ろに飛ぶムーヴ――

 途中、自分と同じに宙を舞うトロフィーが目に入る。



 ――あれは、たしか去年の……



 過去の思い出がよみがえる――

 ムーヴの体は、そのまま背中から倒れ込んだ。


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