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魔法学のすゝめ!  作者: 蒔 望輝
CHAPTER_01 魔法学は苦難の道のり ~don't through the thorny road~
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(05)白いカタマリ ~mass~


「ボクが変える、ボクが……」


 ムーヴは、ボソボソ喋りながら廊下を歩く。

 その顔にはニヤリと笑みがこぼれており、すれ違う生徒の視線を引いてしまう。


「ボクにしかできない、ボクがやらなきゃ――」


「あ、ムーヴ君。今日の放課後また来てほしいんだけど」


「ボクにしかできないこと……」


「ちょっと、ムーヴ君?」


 先生の呼びかけも無視して歩き角を曲がる。先生はその後ろ姿を心配そうに見つめた。


 曲がった先にはトイレと空き教室のみ――

 わざわざ何の用事だろうか。


 それだけ参っているのかもしれない。

 人と会うのが嫌でこんなところに――今日の放課後、ちゃんと話を聞いてあげよう。


 先生は小さく(うなず)き、次に授業する教室へと向かった。





 ○○○○○○





 午後は実技の授業があった。

 クラスのみんながジャージ姿でグラウンドに集まり先生の前で整列する。

 座学とは違い厳しそうな先生――

 入学して日が浅いシュウにとっては、これが初めての実技となる。列の隅っこで次は何が始まるのかと(おび)えていた。


「今日から数日、重複魔術(デュプリケーティング)の訓練を行う」


 また難しい言葉が――


 いきなり気が滅入る。

 落ち込んでいる背中に、リンが後ろから小声で助言する。


「ちがう種類の魔法陣を重ねて繰り出す魔法のことだよ」


「ちがう種類って言われてもだな……」


 なんのことかサッパリだ。


繊細(せんさい)緻密(ちみつ)な魔術のコントロールが必要になる。魔法陣の大きさ・詠唱・魔力――すべてが重要だ」


 先生はそう言って、前列にいるエリスに目を向けた。


「まずは基本の浮遊(ふゆう)だ。エリス、お願いできるか?」


「はい」


 エリスは先生の近くに出ると、自身の正面に小さな魔方陣を階段状に繰り出した。(だいだい)色の魔法陣――その上に躊躇(ちゅうちょ)なく足を置き、シュウの目線より高くに登る。


「今は≪防壁≫を床代わりにしているだけだ。この下に≪衝撃≫を張る」


 エリスが乗るオレンジ色の魔法陣――その下に赤色の魔法陣がピタリと重なる。


「≪防壁≫を壊さぬよう下から力を加える。そうすれば――」


 エリスの体が魔法陣ごと、ゆっくり上空に昇る。

 あっと言う間にシュウの頭上を超え、目算10m近くまで上がっていった。


「コントロール次第でスピードも変わる。リオラもお願いできるか?」


「こんなんよっと――」


 リオラは、その場で先程とエリスと同じ魔法陣を繰り出して上に乗る。下に重なる赤色の魔法陣が、エリスのよりも大きい。そこからは一瞬だった――

 (まばた)きする間もなく、エリスよりも少しだけ高い位置まで登る。


「ふふんっ」


 自慢げな顔でエリスの方を向き鼻を鳴らす。


「ただ力を加えればいいという訳ではない。≪衝撃≫の大きさ、方向、壊れないような≪防壁≫の強さ――あらゆることを計算して魔法を出す必要がある。簡単ではないが、浮遊は基本中の基本、手足のように使えること」


「なあリン、このクラスのみんなは手足のように使えるのか?」


「うん、たぶん」


「そうか……」


 とんでもないところに来てしまった。座学はまだしも実技ならもしかしたらと期待していたが逆だった。

 そもそものレベルが違う。場違いも(はなは)だしい。



 だめだ、全然できない――



 他の生徒にならって手をかざしたり、呪文を唱えたりしてみた。だが、当然というか、見よう見まねで出せるほど魔法は甘くない。

 結局、実技でも何もできない時間が過ぎていくだけだった――





「――帰りたい」


「あはは、ちゃんと教えるからー」


 リンの励ましむなしく、授業が終わったときにはシュウの自身は根っこから枯れていた。


「あれ、どこ行くの?」


「ちょっとトイレ」


「そっか、私たちの階にはないもんね」


 特進クラスの教室近くには男子トイレが無い。設計ミスか、無くて当然なのか――いずれにしろ、トイレに行くときは必然的に一般クラスの生徒と一緒になる。


 もっと誰かと仲良くなれれば居心地も良くなるのだが、入学したばかりでまだ学園に慣れていない。ただの廊下でもシュウは不必要にキョロキョロと周りに気を遣う。



 ――どんっ



「おわっ、と――ごめん」


 シュウがよそ見をしていた結果、1人の生徒と肩がぶつかる。

 相手は振り返ることなく歩き去る。チラッと見えたその顔は笑っていた。何かを企んでいるような、不気味な笑いだった。

 しばらく目で追うと、その生徒がぶつかった拍子に何か(・・)を落としていたことに気がついた。


「まって――」


 シュウが呼び止めてもその生徒が振り返ることは無かった。

 シュウは追いかけることもできず、その落とし物と生徒の背中をただ交互に見つめる。


「……なんだこれ」


 グニャグニャに変形して固まった卓球玉サイズの白いカタマリ。

 少年の不気味な笑い。何かボソボソとつぶやいていた気もする。

 胸騒ぎがとまらない。


「あした聞こう……」


 ただの落とし物かゴミであればいいのだが――

 落ち込んでいたことも忘れ、嫌な予感がしてたまらなかった。


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