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魔法学のすゝめ!  作者: 蒔 望輝
CHAPTER_01 魔法学は苦難の道のり ~don't through the thorny road~
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(04)友達 ~longing~


 学校は、シュウの憧れだった。


 昼休みは多くの生徒が廊下を行き交う。

 陽の光にサンサンと照らされる校内――

 ご飯を食べる者、雑談をする者、暖かそうに昼寝をする者――

 学校に馴染みのないシュウにとっては、どれもが新鮮な光景である。



 <でさあ、聞いてくれよ~>


 <ほんと? すごいねそれ!>



 すれ違う皆が自然と笑っている。

 学園生活を友達と自然に楽しんでいる。

 そして、やっと見つけた自動販売機の近くにも男子数人のグループがいた。


「なに食うー?」


「いやまじそれ、なんでもいいな」



 大丈夫。勇気を出せ――



「あ、あのさ! よかったら俺も……」


 楽しく話していたはずの男子生徒たちが静まり返る。

 シュウも必死で笑顔を取り(つくろ)うが、気まずい空気に心が折れそうだった。


 その沈黙をグループの1人が破る。


「こいつあれだよ。例の、特進の――」


「ああ、行こうぜ」


 男子生徒たちはシュウを把握した途端、シュウのことを見向きもせずにその場を離れてしまう。

 恥ずかしさと悲しさでいっぱいだった。



 ただ、友達が欲しかった。



「……なかなかうまくいかないなあ」


『ピッ――』


 自動販売機のボタンを押す。

 都心でしか見かけない自動販売機、ボタンというよりタッチパネルだ。

 出てくる飲み物はストローのように飲みやすい口に、持ちやすい形状という、これも都心でしか見かけない近代的なボトルに入っている。


 それにしても、とんだ災難だ。

 これがパシられる――イジメというものか。それすら新鮮に感じるが納得はしていない。

 そんなことを考えながら自動販売機のパネルを繰り返し押していた。


 1本、また1本と手元にボトルが増えていく。最終的には両腕いっぱいの状態で最後の1本を購入する。


『ゴトンッ』


「よい、しょっ――」


 大量のボトルを抱えたまま自動販売機の前でしゃがみ込み、何とか手を伸ばして最後の1本を取り出す。

 ちょうどその後ろをエリスが通り過ぎて行く。


「あっ! エリス――っととっと……」


 何とかバランスを取り、ボトルを落とさずに済む。

 エリスは怪訝(けげん)な表情でシュウに振り返る。


「ハナミヤシュウ……何しているの?」


「いま飲み物買ってて、エリスもいる? 教室もってくよ」


「……いらない」


「ま、まって!」


 その場を去ろうとするエリスを再び振り向かせる。


「なに?」


「その、この前はありがとう。保健室に運んでくれたって――」


「かまわないわ。それだけ?」


「あとは、そう、魔法――すごいね、魔法!」


「……どういうこと?」


 エリスは、いっそう顔ををしかめる。


「やっぱエリスの魔法を初めて見たときから思ってたけど、万能というかなんというか――」


そんな(・・・)理由で、入学したの?」


「いや、そういうわけじゃないけど――」


「もう行くから」


「ま、まって!」


「だからなに?」


 三度も振り返えさせられ、エリスはいい加減イライラを(つの)らせた。何とか話題を探し、エリスの着る制服のポケットに目が行った。


それ(・・)、なんか落ちそうだよ」


「え――」


 シュウに指をさされた箇所に手をやり、その拍子でポケットからヒラリと落ちてしまう。シュウはボトルを抱えたまま、慣れた動きでしゃがんでそれを拾う。

 

「ハンカチ? だいぶほつれてるね、よかったら俺が()おうか――」


 しかし、すぐにそのハンカチを取り上げられる。


 エリスは、怒っていた。

 赤くなった目でシュウをにらみつける。


「……余計なお世話よ」


 今度こそ、エリスは去ってしまう。

 ボトルを抱えたまま、しばらくその場から動けなかった。



 古びれたハンカチ、『S.A.』と施された刺繍(ししゅう)、きっとイニシャルだろう――

 男性だろうか、きっと大切なヒトから貰ったものだろう。



「……気になるの? エリスちゃんのこと」


「うん、怒らせちゃったかなあ」


「ふーん……」


「ふーん、って――り、リン?!」


 いつの間にか、後ろにリンが立っている。

 何食わぬ顔で一部始終を(なが)めていたようだ。


「なんでここに?」


「なんでって、誰かさんが自動販売機の前をずーっと占拠するからでしょ」


「……ごめん」


「それに飲みたいジュースはちょうど売り切れ、はっきりと断った方がいいよ。そういうの――」


「あ、ちょ、それおれの――」


 シュウが抱えている山盛のボトルから1番上――シュウが自分のために買った飲み物をリンは取り上げた。

 そのまま勝手に飲み始める。そして、そのまま歩き始めてしまう。


 リンは入学して最初、マリー校長の指示で教室を案内してくれた。他にも校内の説明をしてくれたりと何度か面倒を見てくれた。始めはお互いぎこちなかったがすぐに打ち解け、今では学園内で気軽に話せる唯一の人物だった。

 シュウもリンの横に並んで歩き始める。

 

「――やっぱりおれ、みんなに嫌われてるのかなあ」


「リオラちゃんが面白がってるだけだよ! ビシッと言わないと、どんどん大変になるよ」


「そうなのかなあ……」


「女子だけのクラスに男子が入ってきたら、普通はみんなモ~っとイヤな顔するよ。みんな認めてるんだと思う、あの時のシュウくんの魔法――」


「ぜんぜん実感がわかない」


 白く輝く巨大な魔法陣、そこから放たれる波動――あの場にいた誰もが魅了され、リンもその1人であった。

 ただし、シュウ本人はそのときの記憶が曖昧だった。


「それにしてもホントに入学するなんてビックリ、しかも同級生なんて」


「あーそれなんだけど、実はこの学年になったのは俺もよく分からないんだ。同い年くらいだとは思うんだけど」


「……どういうこと?」


「おれ、正確な年齢分からないんだよなあ。昔の記憶がマルマル無くて……」


 リンは飲み物を(くわ)えたまま固まる。気まずそうにしていた。


「もしかして、地雷ふんじゃった?」


「いやいや! 俺も気にしてないことだから」


 再び歩き始める。


「掃除は? やめちゃったの?」


「いや、清掃員の仕事も続けるよ。倉庫に住まわせてもらうし、ダイモンさんはメシも作ってくれるから」


「そっかあ、大変になるね」


「掃除は全然いいんだけどさあ……」


 授業のことを思い出して気が滅入(めい)る。リンは心配そうに見つめた。

 リン自身、この学校――ことさら特進クラスの授業レベルがいかに高いかを重々承知している。魔法について無学のシュウが授業についていけないことは自明であった。


「……教えてあげよっか? 放課後にでも」


「え?! いいのか?!」


 願ってもない提案だった。


「まかせて! わたし教えるのは結構自信あるんだ」


 フフンと鼻を鳴らすリン――希望の光がシュウに差す。


「あ、でもおれ放課後は掃除が……」


「終わってからでいいよ、わたしも部活に顔出すから」


「部活……そんなのもあるのか」


 聞いたことがある。

 汗水流して青春を謳歌(おうか)する部活――いい響きだ。


「このクラスはわたししか入ってないけどね――じゃ、終わったらグラウンド集合で!」


 いつの間にか教室に到着していた。

 リンは持っていた飲み物をシュウの山盛りボトルの上に戻し、先に教室の中へ戻ってしまう。


「……なんだよ、ぜんぜん飲んでないじゃんか」


 ノドがカラカラだった。腕を器用に使い、リンに戻されたボトルの飲み口を自分の口にもっていく。

 確かに飲みやすい、喉が急速に(うるお)っていく。


 ふと教室に目をやるとリンが扉の裏で顔を半分だし、顔を真っ赤にしてこちらを覗いていた。

 目が合うと「べーっ」と舌を出して引っ込んでしまう。


「……なんなんだ?」


 何にせよ、今日の放課後が楽しみになったシュウだった。


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