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01 やぶからぼうに、空から竜

ここから続きです。

 空が広いです。

 どこまでもつきぬけるような青い空の下、雄大な山並みが遠くに連なっています。その稜線の手前には牧草地帯の緑が風にそよいで波うち、点在する牧畜たちが、ゆうゆうと草を()んでいます。

 

時折、その上空を大きな影がよぎります。

 

「あ。竜だ」

 

 あれは竜騎士を乗せた騎竜でしょうか。

 なんでもこの辺境の地には、竜騎士で構成された部隊があるそうで、首都では珍しい竜の飛行風景も、ここでは日常茶飯事です。


 「ミュミュー」

 手をかざして竜の軌跡をおっていたわたしの注意をひこうと、ふかふかの毛で覆われた子どもの牧畜(ラルー)が甘え声を出しながら、頭をこすりつけてきました。

 「よーしよし。いい子だねー」

 ぐいぐいとくる勢いに負けないよう踏ん張りながら、手をのばし耳の付け根をかいてやると、満足そうに鼻を鳴らしています。 

 

 カワイイ。でもデカいです。とてもデカい。頭の位置が私の肩あたりです。ビジュアルは前世の羊なのに、サイズが違う。まるでアメリカバイソンです。


 それでも無邪気に甘えられると、カワイイと感じる不思議さ。カワイイは正義。カワイイはフィルター。

 

 このフィルター越しの世界は、なんとものどか(・・・)で、ささくれた心に沁みるのです。


 ――浮気男へ鉄拳制裁を加えた後のわたしの行動は、きわめて迅速でした。


 親戚・知人のそのまた知り合いというような、か細い伝手(つて)を強引にたぐり寄せ「ここではない、どこか」――ぶっちゃけるとこの一件が知られていない辺りへと新たなる人生のステージを求めて、引き止める家族を振り切り、一人旅立ったのです。


 ヤツの実家からよこされたわずかばかりの慰謝料(というより手切れ金)を旅費に充て、八百屋を営む実家のある首都から、国の端っこへ。

 

 そして八百屋の看板娘から、牧畜番への華麗なる転身です。


 ちなみにこの世界の「牧畜番」とは、風属性の魔法を駆使して牧畜の群れを統制し、事故や魔獣などの外敵から守るという割とハードなお仕事です。

 そこで求められるスキルは、音を操って対象物を呼び寄せたり、追い払ったりというモノで、笛の音色を吹き分けて牧羊犬に合図する前世の羊飼いを彷彿とさせます。

 

 幸い、風属性持ちのわたしはその条件をなんなくクリア。無事採用に至って、山と牧草しかないこの地に腰をすえたのです。


 このところは天候に恵まれ、穏やかな日々が続いています。実際、外敵の襲来などは牧畜番がついている分には滅多にないそうです。魔獣も本能的に危険がわかるそうで。


 朝、放牧地に群れを誘導して、暗くなる前に畜舎に帰るまで、全体に注意は払っていますが、基本的に暇です。

 そして、音を出すことで、群れには「音の聞こえる範囲にいれば安全」と伝え、外敵には「人間がいるぞ」と威嚇する一石二鳥になるので、積極的にそういうことが推奨されています。

 

 どういう事かというと、『番をしている時は、なるべく歌ったり、楽器を弾いたりしててね』ということです。――大丈夫、聞いてるのはラルーだけ。恥ずかしくなんかないですよ。


 群れが適度に拡散して、頃合いやよし、と見たわたしは、肩にかけていた愛用の楽器を胸の前にかまえて、(ひと)()ちました。


 「今日は――アニソン・メドレーかな」


 野外オンステージです☆


 ◆◆◆◆◆◆◆


 一曲目のサビにさしかかり、気持ちよく高音シャウトをキメていたところ、突然、ラルーたちが騒ぎ出しました。


 ラルーは鳴き声を使い分けるという習性をもっていて、子どもの甘え声はミューミューとカワイイのに、成獣の警告音はちょうど、前世で聞いたフェリーの汽笛にそっくりなのです。

 

 あまりの大音量に、何事か、と周囲を見渡したわたしの頭上に、突然、大きな影が覆いかぶさってきました。

 ひときわ大きくなったラルーの鳴き声が、絶叫のように辺り一面に響きました。

 

 そして、次の瞬間、大きな竜のかぎ爪に捕らえられ、わたしは空中にさらわれたのです。

アルファポリスとカクヨムにも投稿しています。

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