寛容な君(※意味怖)
君は本を閉じて俺に言った。
「この童話の狼は赦されるべきだわ」
俺は朝食に使った食器を洗いながら、どんな話だったのかと聞く。
「真っ赤な頭巾を被った主人公の少女とおばあさんが狼に食べられてしまう話」
君はそう言って俺の反応を見るように言葉を切った。
皿をすすぎ終わり、シンクを磨きながら俺は聞いた。
「……俺が本を読まないの知っているだろう、もう少し詳しく話してくれ」
俺の言葉を聞いた君が、ニッコリと微笑んだ。
俺の隣でウェデングドレスを着たあの日の君と同じ笑顔。
「猟師がやってきて、狼のお腹を割いて少女とおばあさんは助かるの」
急に出てきた腹を裂くという言葉の不穏さに俺は身構えた。
透き通った茶色の瞳が挑戦するように俺を見ている。
「狼は石を詰められて、池に落ちておしまい」
君の俺を見る目がスゥっと細くなった。笑っているようにも、何かを見抜こうとしているようにも見える。
「正義は勝つってやつか?それで何故、狼が赦されるべきって話になるんだ?」
俺は動揺を悟られないように洗い終わったシンクを丁寧に空拭きする。
「猟師によって、人を食べた罪は消滅したから。だから、私もね……あなたの不倫相手を赦そうと思うの」
日だまりのような君の笑顔に悪寒が走った。……まさか。
「どうしたの?そんなに震えて。私がいるんだから何も怖がることはないのよ」
君はそういって慈しむような笑顔を俺に向け、赤い帽子を俺に被せた。