欲しいもの
僕は小説が書きたいんだ。
食事も忘れてプロットにのめり込んだ。
紙とペンがあれば完成する僕の僕による僕のための物語。
お互いを無二の存在として認めあう関係性。
失敗したって謝罪のチャンスがある世界。
なんなら、より良くするだけの力がある主人公。
見目麗しい好みの異性が、あるがままの主人公を愛する。
そして感動的な幕引き。
できたプロットを見てそんな世界にいきたいなぁと、まだ僕の中にしかない世界に浸る。
プロットから文字に起こそうとキーボードを打つ、つくりたいのに頭が回らない。
出口を失った僕のアイディアが頭の中で喧嘩を始め、敗れて消えていく。
あぁ、どのアイディアも形にしたくて急いでいたのに。
ピタリと止まった僕の手を見て君が言った。
「ご飯最後に食べたのいつよ?」
あきれた声に心配の色が滲んでる。
「創るために生きてるんでしょう?食え」
差し出されたおにぎりが美味しい。
食べるなり文字を打ちはじめる僕を見てため息ひとつ。
君は台所で食器を洗いはじめた。
そんな嫁がほしいなぁ……。
僕は手の中に残ったビニールの包みを捨てるため、重い腰をあげる。